芸大・美大生は女性7割、でも教授は逆転 表現の場のジェンダー格差
文化芸術界の主要な賞の審査員と受賞者は男性が多数を占め、教育機関においては学生は女性が多く、教授は男性が多い――。表現に携わる有志らで作る団体が24日、各分野におけるジェンダーバランスの調査結果を発表した。
調べたのは、表現者や研究者ら16人で作る「表現の現場調査団」。これまで文化芸術界のハラスメントについて調べ、その一因にジェンダーバランスの不均衡があると分析。実態を可視化して解消につなげようと、美術、演劇、映画、文芸、音楽、デザイン、建築、写真、漫画の9分野の主要な賞や、表現を学ぶ教育機関など、権力勾配がある場所のジェンダーバランスなどを調べた。
審査員の77%、大賞受賞者の66%が男性
賞(2011~20年)の調査では、9分野全体でみると、審査員の77・1%、大賞受賞者の65・8%を男性が占めた。調査団は「男性が審査し、男性が評価されやすい構造がある」としている。
文芸のうち「評論」は6賞の審査員の94%を男性が占めた。映画では、学生や新人、低予算作品に比べ、商業映画を対象にした賞ほど女性の割合が少ない傾向があった。美術では「個展開催」「美術館の購入作品」も調査、いずれも男性が8割以上だった。演劇では21年の各協会役員や芸術監督の73%が男性だった。
一方、小説や漫画など個人として創作することが多い分野では、チームでつくる分野と比べて女性の比率が比較的高い傾向も見られた。
調査では教育機関のジェンダーバランスの不均衡も浮き彫りとなった。
「いびつな構造が表現の世界にある」
21年の東京芸大と5美術大学(多摩美、武蔵野美、東京造形、日大芸術学部、女子美)を合わせた調査では、学生では女性が73・5%を占めたが、教授では19・2%と男女比が逆転する形となった。教育機関の特徴として、学長や理事長、教授、准教授、常勤の役職などで男性の割合が高く、助教や助手、非常勤講師などで女性の割合が高い傾向があったという。
調査団の田村かのこさんは「ロールモデルとなる女性と出会う機会が少ない。発言権、意思決定権を持つ地位に女性を増やしていくべきだ」と指摘。「提示したデータが今の構造を変えたいと思う皆さんの武器となって、変化を起こすための行動の後押しになることを願っている」と語った。
調査に協力した荻上チキさんは「文化芸術の教育を受けている女性、潜在的な表現者は多い。しかし実際には男性が評価し、男性が評価される構造が各分野に存在していることが明らかになった。一方、女性やジェンダーマイノリティーはふるい落とされて燃え尽きてしまい、消費者として主に男性の表現者を支える。こうしたいびつな構造が今の表現の世界にある」と指摘した。(佐藤美鈴)
教育の場から賞をとるまで男性的価値観で評価
◇田中東子・東京大大学院教授(メディア文化論)の話
ある程度網羅的に調べ、日本の表現の現場のジェンダーバランスを俯瞰(ふかん)するという意味で非常に有意義な調査。教育の場から、プロになって賞をとるまで、キャリアの様々な局面で男性的な価値観を中心に評価される、ジェンダーギャップの傾向がはっきりと浮き彫りになっている。
「格差は気のせい」「アートは実力の世界」といった雰囲気的な議論ではなく、データを元に幅広く議論する必要がある。
一方、調査団も言及しているが、この手の調査は性別二元論や男対女という軸だけで考えるべきではない。あらゆる立場の人が活躍したり評価を受けたりする際に不利益を被らないように検討するための、たたき台にしていくことが重要だ。
多様な表現者が増えることで、これまで光が当たらなかったテーマやモチーフが見えてきたり、新たな表現が生まれたり、文化や芸術がより芳醇(ほうじゅん)で良いものになる。多様な作り手が参入できる環境を整えることがとても重要だと思う。
有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。
- 【視点】
審査員の約8割、大賞受賞者の3分の2割が男性。数字で示されると、改めてその偏りぶりに驚きます。新聞社も含め、様々な賞の主催団体はこのデータをどう受け止め、どう対応するのか。伝統や歴史、由緒ある賞の主催団体であればあるほど、こうした指摘への

Think Gender
男女格差が先進7カ国で最下位の日本。生きにくさを感じているのは、女性だけではありません。だれもが「ありのままの自分」で生きられる社会をめざして。ジェンダーについて、一緒に考えませんか。[もっと見る]