第1回テロリストの妻にされた私 望まぬ妊娠、それでも子は希望に
目の前に現れた身長150センチほどの小柄な女性は、偽名を使って生きていた。
髪の毛を覆う黒いスカーフとマスクの間にのぞくぱっちりとした目は、薄紫のアイシャドーでより際立って見えた。
アビール・ムハンマドさん(26)。
8年前の冬、18歳のときの出来事。
風邪を引き、両親に連れられて病院に行った。入り口で警備役のような男が、無言で、体をなめ回すような目つきで自分を見ていた。
首の付け根あたりまで伸びたあごひげ、ぼさぼさの長い髪の毛、長身で太った体。気味が悪くて、すぐに目をそらした。
その2日後だった。
韓国製の四輪駆動車に乗った4、5人の男たちが自宅にやってきて、父に告げた。
「預言者の教えに従い、お前の娘をもらう。俺の妻としてな」
窓からのぞくと、病院で見たあの男がいた。後をつけられたのか、診療カルテから自宅を割り出されたのか、わからない。
「娘はまだ若くて世間知らずだ。結婚させるつもりはない」。父は抵抗した。
男にあきらめる様子はなく、毎日のように自宅に来た。
「これは命令だ。従わなければ、殺す」
このままでは、両親と5人のきょうだいが危険にさらされる。男に嫁ぐと決意したが、父は「死んでもお前を渡さない」と言ってくれた。
だが1カ月後、不安は現実となった。
父と、17歳の弟が連れてい…