トヨタ「消去法で選ばれた感じ」からの脱却 レースに通い見えた変身

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近藤郷平
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 クルマの祭典「東京オートサロン」で1月に披露された小さなスポーツカーが、ファンの心をわしづかみにした。トヨタ自動車が約20年ぶりに自社開発した四輪駆動スポーツカー「GRヤリス」の進化版「GRMNヤリス」。消去法の末に選ばれる車から、乗りたい車・買いたい車へ――。それは、いまトヨタがめざすクルマづくりを象徴するモデルだった。

 普通ならレース用の車は市販車をもとにつくられる。ところがGRヤリスは「モータースポーツ用の車を市販化する」という逆の発想で開発された。プロドライバーが初期段階から開発に入れ込んだ。2020年の発売後も、耐久レースやラリーなどに参戦を続けている。

 レースで培った最新の技術をさらにつぎ込んだGRMNヤリスを500台限定で発売します――。1月の東京オートサロンでトヨタがそう発表したところ、2月末の締め切りまでに1万人を超える応募が殺到した。標準仕様で700万円を超える価格をものともしない人気ぶりだった。

 「壊れたら直す。これを繰り返し、レースに出続けることでGRヤリスは強くなってきた」。全応募者のもとに感謝の手紙が送られた。その差出人は、トヨタの豊田章男社長。性能をチェックする「マスタードライバー」として、自ら開発を引っ張ってきた。

 手紙には「今も開発は続いており、完成せずとも鍛えた結果を随時お客様に届けるのが責務。もっともっと鍛えていく」とつづられていた。「走っていてもっと楽しいクルマ、もっと安心して走らせられるクルマをつくり続ける」とも。

 トヨタといえば年間1千万台を売る世界トップの自動車メーカーだ。ただ、トヨタがつくる車そのもののイメージは、必ずしも人々のあこがれを誘うものではなかった。

 自動車研究家の山本シンヤ氏は「壊れなくて、価格はアフォーダブル(手ごろ)。ただそれだけで、消去法で選ばれていた感じ。とくに車好きにとっては、絶対買わないナンバーワンだった」と語る。

経営戦略を転換、「平凡なトヨタ」を変えたのは

 そうした評価は、かつてのト…

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    福田直之
    (朝日新聞コンテンツ編成本部次長=経済)
    2022年9月12日10時46分 投稿
    【視点】

    トヨタ自動車を率いる豊田章男社長が実践してきた、「もっといいクルマをつくろう」という商品を軸にした経営がわかる記事です。  豊田氏が2009年に社長に就任した頃、トヨタの担当記者をしていましたが、その際のキーワードは「原点回帰」でした