ウクライナには50回以上行ったが、こんなことは初めてだった――。
今年2月中旬、黒海沿岸にあるウクライナ南部チョルノモルスクの港に入港した貨物船のトルコ人船長(58)は、直後に起きたロシアによるウクライナ侵攻で約半年間、身動きが取れなくなりました。
1985年から船乗りとして数え切れないほど海に出てきましたが、航海中に戦争に巻き込まれるのは初めてのことでした。
そのとき、ウクライナの港では何が起きていたのでしょうか。
戦時下での船上生活は、どのようなものだったのでしょうか。
ウクライナからの食料輸出が再開されて1カ月あまり。出港が許可されて、トルコに戻るまでの日々を振り返ってもらいました。
ロシアの侵攻「うわさ話かと」
「あれはなかなか良い船だなあ。ウクライナから来た船かもしれないね」
8月下旬、イスタンブールのボスポラス海峡を望むカフェで会った男性が、うれしそうにつぶやいた。
貨物船「ポラネット」のトルコ人船長アフメット・ユジェル・アリベイレルさん(58)だ。
仕事を離れても、やっぱり船のことが気になる。この海峡は、自身が8月にウクライナから戻った際に通った場所だ。
左手の薬指にはいかりがデザインされた指輪。免税品のたばこを次から次へと吸っていた。
アリベイレルさんの貨物船がウクライナに到着したのは2月11日。積み荷を下ろし、約2週間後には14人の乗組員とともにトルコに戻る予定だった。
当時、ロシアによるウクライナへの侵攻が取りざたされていたが、気にもとめていなかった。
「うわさ話だと思っていた。信じなかったし、その可能性すらないと思った」
侵攻2日前の夜、船員たちとチョルノモルスクのバーに繰り出し、ウォッカとワインで乾杯した。
「ウクライナ人だって、誰も戦争があるなんて思っていなかったよ」
未明のサイレン「訓練じゃないのか」
そして、2月24日未明。チョルノモルスクの港にサイレンが鳴り響いた。
乗組員とともに跳び起きたが、「まさか。訓練じゃないの?」。
2時間以上、鳴りやまぬサイレン。
「(ロシア軍の)攻撃が始まった」。やって来たウクライナ軍の兵士に告げられた。
港は封鎖された。ほかにも1…

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