声の出ない私に力与えたあの場面 山根基世さんが語る「映像の世紀」

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構成・平賀拓史
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 1995年に始まったNHKスペシャル「映像の世紀」のナレーションを務めてきた元NHKアナウンサーの山根基世さん(74)。現在放送中の「映像の世紀バタフライエフェクト」(NHK総合、月曜夜8時)でも、山田孝之さんと交代でナレーションを担当している。初代収録時のエピソードや、ウクライナ侵攻が始まった現代への思いなど、縦横に語ってもらった。

やまね・もとよ

1948年生まれ。71年NHK入局、2005年に女性初のアナウンス室長に就任。07年に定年退職後はフリーで活動し、TBSドラマ「半沢直樹」のナレーションも務めた。

「腰で読む」開眼した瞬間

 【初代「映像の世紀」は95~96年に全11回が放送され、全て山根さんがナレーションを務めた。以来、『新』『プレミアム』『バタフライエフェクト』と続くシリーズには根強いファンも多い】

 「映像の世紀」は、私をナレーションに開眼させてくれた、ナレーションについて考えさせてくれた番組です。

 特に強く覚えているのは、60年代のアメリカでの公民権運動のシーンを収録した際のこと。体調がずっと良くなかったんだけど、その時流れてきた映像に驚きました。

 黒人のデモに白人警官が犬をけしかけて警棒で殴ったり、黒人が白人専用のレストランに入って無言の抗議をしていたり。こういった映像が報じられることで、黒人の直面する人種差別、不平等が知られていき、世論が盛り上がって公民権法成立につながる。

 体調が悪い、声が出ない、ああどうしようと思っていたけど、この映像が伝えられたことで世の中が変わったんだと。どうしても伝えたい、伝えなきゃならない。そう思うと、力が入ってきたんです。

 体を持ち上げて「腰で読む」というか。そんな感覚をあのとき体得したんですよね。だからってその後ずっと腰で読めているかというと、そうはいかないけれど。

 映像をテーマに20世紀を振り返るという壮大な企画。最初は「なんで私が?」と、自分にできるのかどうか不安でした。番組は1回につき75分間。台本が出てくるのが収録の前日で、直前に一度全部読んだだけで直しを入れて本番収録、ということもありました。毎回毎回綱渡りで、ただただ一生懸命だった。ハードだったけど、やりがいもありました。

「私の物語」  ケネディも隣人のよう

 【初代「映像の世紀」から27年。「映像の世紀バタフライエフェクト」は、1人の小さな営みが生み出す歴史のうねりに着目した】

 初回から、「この手があったか!」と思いました。テレビの生き残る新しい道が開けたな、というくらいの思いがありますね。

 たとえば、アラビアのロレンスを取り上げた回(6月20日放送「砂漠の英雄と百年の悲劇」)。初代のときに見た映像が再編集されて、ユダヤ人とアラブ人の関係が改めて整理された。その上に、現代の覆面アーティスト・バンクシーパレスチナの分離壁に描いた壁画の映像も加わった。

 お互い傷つけ合って、どっちが悪いとはいえないけど、どうして良いのか分からない、そんな時代をこの先どうやって生きていくか、よりよい解決の方法はないのか。バンクシーが加わることで、なんだか明るいヒントを示してくれていますよね。

 教科書を読んでいるような初代に対して、(一人の営みに着目した)「バタフライエフェクト」は、歴史が人ごとじゃない、なんだか「私の物語」という感じ。

 戦時中、占領したグアムのテニアン島で日本人のための小学校を作ったテルファー・ムック。キューバ危機の最中、軍の暴発を抑えようと苦悩するケネディ。遠い歴史上の偉い人じゃなくて、なんだか隣人のように身近に感じます。

 初代「映像の世紀」は、NHKという組織が作りあげた大プロジェクト。一方でこの「バタフライエフェクト」は、これまで見てきた映像も多いのだけれど、新しい発見がたくさん。編集の妙というか、テレビの技やスタッフの料理する力を味わえる作品ですね。

 みんなが互いに情報を素早く発信できるSNS時代で、テレビは「オワコン」なんて呼ばれて久しい。けれど、人々の視点を変えたり、思考を深めたりする、ある種従来の活字が持ってたような役割を果たすのが、これからテレビが生き残っていく道なんじゃないか。そうも感じます。

祈るように読む。よりよい世の中に、と

【制作中の今年2月、ロシアのウクライナ侵攻が始まった。「映像の世紀」で何回も見てきたような、衝撃的な映像が日夜報じられる】

 侵攻が始まってから、この「…

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