「安倍元首相の事件はヤラセ」 人はなぜ陰謀論に次々ハマるのか
山口真一のメディア私評
社会に大きな衝撃をもたらした安倍晋三元首相銃撃事件であったが、ネット上ではメディア・情報の観点から注目すべき事態も起こっていた。一部のSNS上で、「事件はヤラセである」「これは自作自演だ」などというデマが拡散されたのである。デマを流したアカウントの中には数万人のフォロワーを抱えるインフルエンサーもいた。また、「容疑者が撃ったのではなく、別のスナイパーが撃っていた(他に真犯人がいた)」というデマを芸能人が拡散したことも話題になった。
このようなデマは「陰謀論」といわれるものだ。陰謀論の定義は難しいが、おおむね「何らかの出来事について、背後に強力な集団・組織による力が働いているという考え」といえる。
陰謀論の特徴は、何かしらの理由付けがなされていることである。例えば「安倍元首相の事件はヤラセ」というデマを流したアカウントは、「映像を見ると血を流しているように見えない」「安倍氏を現場で救護する女性と海外で活動する大手テレビ局の女性記者は同一人物で、国と組んだ役者だ」などの「根拠」を提示していた。
多くの読者は、陰謀論のような荒唐無稽な話は自分とは無関係だと思うかもしれない。しかし以前、英ケンブリッジ大学が実在する五つの陰謀論を使って調査をしたところ、ほとんどの英国人がどれかについて「信じている」と答えたことが分かっている。しかも陰謀論を信じている人は、家に閉じこもり気味のネットのヘビーユーザーで……というステレオタイプのイメージとは異なり、社会的階級や性別や年齢を問わず存在していたようだ。
筆者が日本在住の1万9989人を対象に行った調査でも、少なからぬ人が陰謀論を信じていることが明らかになっている。この調査では、「コロナワクチンは人口減少をもくろんだものだ」という実在する陰謀論を使って人々の行動を分析した。「プランデミック(計画されたパンデミック)」といわれる言説であり、世界中で広まっている。調査の結果、この陰謀論を知っている人は全体の4・2%であり、そのうち11・1%の人が情報を信じ、31・4%の人が正しいかどうか分からないと回答した。このデマを知った人の中で、少なくない割合の人が、誤っていると気づいていなかったのだ。
人はなぜ、このような陰謀論…