浅山あゆみさんは、友人の阿部華子さん(当時27)からの連絡を待っていた。
2020年の大みそか、米サンフランシスコの中心街ソーマ地区。IT企業で勤める若者らが住む高層マンションが並ぶ一角は、夕暮れどきを迎えていた。
「チーズケーキを作って持っていくね」
華子さんは前日、そうメッセージを送ってくれた。浅山さんは電話で「年越しそばを買ったから、持っていく」と伝えていた。
二人は2年ほど前、知人の紹介でこの街で出会った。月に一度は会うほどの仲良しだったが、コロナの感染拡大がひどかったこの年は、ほとんど会えずにいた。だから、この日はせめて食べ物を交換をしようと、華子さんのアパートの下で待ち合わせることになっていた。
午後5時すぎ、浅山さんは到着を知らせるメッセージを送った。いつもは返事がすぐ来るのに、30分ほど待っても返事がなかった。近くに多くのパトカーが見えたが、いつも見かける光景で、特に気にかけなかった。
「もう遅いから帰るね」。浅山さんはそうメッセージを送って、その場を離れた。
その頃すでに、アパートから歩いて3分ほどの交差点で、華子さんは事件に巻き込まれていた。チーズケーキに使うチーズを買いに出たところだった。
【連載】 娘の命を奪ったのは アメリカを動かした事件の記録
華子さんが亡くなった事件の背景をたどると、ある検事の存在と、米国が抱える刑事司法の問題が浮かびました。一人の日本人女性の死が社会を動かしていきます。全3回の連載です。
サンフランシスコ警察による…
- 【視点】
地元サンフランシスコのメディアもこの悲惨な事故(事件?)に注目し、チェサブ―ディン地方検事に対する批判が強烈だった。警察組合会長も「犯罪者ファースト、被害者が二の次という、検事のアジェンダが浮き彫りになった」と非難している。 ブーデ