第2回8カ月で5度逮捕、でも起訴されず  「ハナコのため」市民は動いた

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サンフランシスコ=五十嵐大介
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 9月20日朝、米サンフランシスコの裁判所。トロイ・マカリスター被告(46)が、オレンジのスウェットに、白いマスク姿で法廷に入ってきた。スウェットの長い袖をくるくる回しながら、判事の前のいすに座った。2020年の大みそかに阿部華子さん(当時27歳)らを車ではねて自動車運転過失致死罪などで起訴された男だ。マスクの脇からのぞくひげには白いものが混じっていた。

 「今は収監中なのか」。判事が検事らに聞くと、マカリスター被告もうなずいた。

 この日は検察と被告の弁護人が次回の予備審理を11月と決め、審理を終えた。わずか2分足らずのやりとりだった。

 公判の関連資料によると、マカリスター被告はサンフランシスコ市内で生まれ、10代で軍の仕事をしていた父親を亡くした。15歳で薬物を使うようになり、高校を中退。20歳の頃から強盗などの犯罪を繰り返すようになった。

 マカリスター被告は、2015年に強盗事件を起こし、裁判を待つ間5年間収監されていた。華子さんを車ではねた事件の約8カ月前の20年4月、仮釈放が認められたばかりだった。検察との司法取引で、懲役5年の刑を確定させる一方、すでに収監された期間を差し引き、仮釈放を認めるものだった。

【連載】娘の命を奪ったのは アメリカを動かした事件の記録

華子さんが死亡した事件の背景をたどると、ある検事の存在と、米国が抱える刑事司法の問題が浮かびました。

なぜ検事は「道を外れ過ぎた」のか

 このマカリスター被告との司法取引に関わったのが、20年1月に着任したばかりだったサンフランシスコ郡の検察トップ、チェサ・ブーディン地方検事だった。

 米国では事件の取り扱いで地方検事にかなりの裁量権がある。予算や人員の制約などから、大半の刑事事件が司法取引で処理されているとされる。

 ブーディン氏は、長期の服役…

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