第2回「たかが国葬」と言うために 法的根拠、あえて持たせない知恵

有料記事国葬

聞き手・岡田玄
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 岸田内閣が実施を決めた、安倍晋三元首相の「国葬」に反対する世論が広がっている。根拠となる法律がないことや閣議決定で決められたことなどが理由として挙げられるが、国葬実施に反対という南野森・九州大教授(憲法学)は「たかが国葬」ととらえ、現状でも「法的に問題があるとは言えない」と言う。そして、法的根拠がないままにしておくのも一つの知恵だと指摘する。どういうことか、話を聞いた。

インタビューシリーズ「国葬を考える」

安倍晋三元首相の国葬をめぐり、世論の賛否が割れています。首相経験者としては1967年の吉田茂氏以来戦後2例目となる今回の国葬をどう考えたらいいのでしょうか。様々な角度から有識者らに聞きました。

 ――今回の国葬について、憲法学者の立場から見て、問題はないのでしょうか。

 「まず、法的な根拠があるのか、ないのか、という問題を考えてみたいと思います」

 「岸田内閣は、内閣府設置法の規定を根拠として国葬の実施を閣議決定しました。しかし、この規定は、行政の事務配分を定めた規定にすぎません。他の法律などであらかじめ決まっている権限や、他に法的な根拠がある事務のうち、何を内閣府に担当させるかを書いた規定です」

 「つまり、国の儀式として国葬を行うことがどこかで決まれば、その事務は内閣府がやりますよ、という話です。ですから、内閣府が儀式の事務をやることになっているからといって、その儀式に法的な根拠があるとは言えません」

国葬に法的根拠は必要なのか

 「ただ、二つ目の論点として考えるべきなのは、法律上の根拠がなければ、国葬はできないのかということです」

 「国の行政が行うことは全部、いちいち法律上の根拠がなければいけないのか。政府はフリーハンドで何をやってもいいというのでは困りますが、伝統的な通説や行政実務では『必ずしもすべてに根拠は必要ない』という考え方がとられています」

 「国民の権利を制約したり、義務を新たに課したりする場合、つまり国民にとって不利益を課す行政の行為には法律の根拠が必要だとされます。これを『侵害留保説』と言います」

 「これに対して、いやいや、すべてに法律の根拠が必要だという『全部留保説』という考えもありますが、これはごく少数派です」

 ――実際、起こりうるすべての事柄について事前に議論して法律を用意しておくのは、むずかしそうですね。

 「いま説明した二つの説の間に、大規模な補助金や国土全体の開発計画のような重要な事柄については法律の根拠が必要だという『重要事項留保説』や、国民の権利義務を行政が一方的に変動させるような権力的な行為については法律の根拠が必要だという『権力留保説』などがあり、最近はこれらの学説が有力になっています。『侵害留保説』では、あまりに対象となる範囲が狭すぎるということです」

 「でも、何が『重要事項』に入るのか、あるいはどういう行政活動が『権力的』とされるのか、厳密な線引きは困難で、解釈によって評価が分かれてしまいます」

 「では、国葬はどうでしょうか。国葬という儀式によって、国民の権利が制約されたり、義務が課されたりするわけではありません。侵害留保説の立場にたてば、法律の根拠は不要、ということになります」

 「岸田首相も閉会中審査で、『そういう学説に依拠している』と答弁しましたが、これまで一般に考えられてきたものと比べるならば、国葬が『重要事項』だとか『権力的』だということも難しいと思います。やはり、伝統的な通説や最近の有力説の立場に立てば、国葬には法律の根拠は不要ということになるのです」

「国葬ごとき」は閣議決定で自由に決めればいい

 「結局、国葬という儀式は、憲法65条で定められた、内閣がもつ行政権の中に含まれていると考えられます。その意味で、あえて言えば、『国葬ごとき』は、閣議決定で自由に決めればいいものです」

 ――国葬ごとき、ですか。

 「法律の根拠がいらないとさ…

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    藤田直央
    (朝日新聞編集委員=政治、外交、憲法)
    2022年9月18日15時42分 投稿
    【視点】

    いつも厄介な政治問題に切り込む南野先生に敬意を表します。今回の国葬には反対というお立場とは別に、憲法学者として政府をどう縛るかについて、究極の選択のような悩ましさを率直に語られていると思いました。  法的根拠にこだわると、かえって政府が国

連載国葬を考える(全18回)

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