聞こえない人のための「手話ハウス」 大村市で全国初
長崎県大村市にこの春、耳の聞こえないろうあ者のためのシェアハウスが、全国で初めて誕生した。その名も「手話ハウス 結」。聞こえなくても住みやすい工夫が詰まったこの家で、3人の女性が共同生活を送っている。
大きな窓から西日が差し込む夕方。オレンジ色の光につつまれたリビングで、森淑枝さん(71)と辻奈緒さん(36)が揚げたての野菜の天ぷらを囲みながら笑い合っていた。2人とも、生まれつき耳が聞こえない。
「コミュニケーションによって人間は人間になるけれど、ろうあ者にはそこに壁がある。聞こえない仲間同士が自由に手話でしゃべれる場をめざしました」。建設計画に携わってきた県聴覚障害者情報センターの西川研所長(63)は話す。
「結」誕生のきっかけは2015年。ろうあ者でつくる県ろうあ協会などが県内の55歳以上のろうあ者約200人を対象に、将来はどこで暮らしたいか▽日常生活での困りごと――といった点を尋ねた。
将来の居住地については(複数回答)、「現在の家に住み続けたい」が最多(84人)、「県内にろうあ者専用施設が建設されれば入所したい」との回答が(79人)続き、「健常者と一緒の施設に入所」を選んだのは5人にとどまった。一方、困りごとでは「コミュニケーションが取れない」「生活情報が入らない」などの回答が多かった。
(健常者と一緒の)一般的な高齢者施設では、高齢のろうあ者が孤立している――。そんな実態が浮き彫りになった結果をうけ、協会や関連団体のメンバーらが「県聴覚障害者居場所づくり推進委員会」を結成。ろうあ者のためのシェアハウス設立に向けて募金活動などで資金を集め、21年11月に着工。今年5月に開所を迎えた。
「結」には八つの個室があり、現在、30~70代の女性3人が暮らす。室内には、聞こえなくても安心して暮らせる工夫がこらされている。
来客を知らせるのは、呼び出しボタンと連動して光るフラッシュランプ。お互いの足音が聞こえなくても室内でぶつからないよう、曲がり角の一部はガラス張りだ。火災が発生すると、自動で住所や施設名を伝える通報設備のほか、ボタン一つで関係者に一報が届くシステムも備えた。午後4~8時は手話が使える支援スタッフがサポートしている。
5月に入所した森さん。もともと佐世保市の障害者グループホームで生活していたが、手話での交流を求めて移ってきた。昼間は就業支援施設に通うが、時間が合えば3人でご飯をつくって食べたり、テレビを見ながらおしゃべりしたり。いつでも手話で話せる仲間がここにはいる。「もっと人が増えたら」。森さんは手話で話した。
西川所長は「聞こえない人の暮らしにくさは見えづらい。より多くの人に知ってもらうことも大切」と話す。現在も入所者を募集している。一方、運営費の確保が今後の課題だ。資金繰りのため、施設の運営を支える「サポーター制度」の導入も検討しているという。
問い合わせは、県ろうあ協会(095・847・2681)まで。(寺島笑花)
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