16歳の僕は、ウクライナの少女に恋をした 留学、結婚、そして戦争
1メートル四方もない小さなテーブルに、ウクライナ料理がずらりと並んだ。
ポテトとチーズが入った団子と、キャベツや豆のサラダ。豚肉を乗せたポテトに手作りのパン、そしてボルシチ――。
8月のある夜。東京都内のアパートの一室で、教育系のベンチャー企業を経営する前田智大さん(26)は「メッチャおいしい。レストランが開けますよ」と笑顔を見せた。
料理は、ウクライナ人の妻オレーナ・フェドニュクさん(27)の母ターニャさんが手作りした。
若い夫婦が暮らすアパートはいま、もう一人、妹ソフィアさん(12)を入れた4人で夕食を囲むのが日課になっている。
ターニャさんとソフィアさんは、ウクライナから日本に避難中。現在、近くのマンスリーマンションで暮らす。
2人を日本に呼び寄せることになった前田さんとオレーナさんの恋は、16歳で始まった。
ダンス披露、「パーティーの主役」に
2012年7月。
灘高(兵庫県)の2年生だった前田さんは、国際生物学五輪の日本代表としてシンガポールにいた。
59カ国の高校生234人が、生物学の知識や実験技能を競う。
オレーナさんは、ウクライナの代表だった。
大会初日。宿舎の受付に並んでいたとき、初めて言葉を交わした。
中高と男子校の前田さんは、どぎまぎしてうまくしゃべれなかった。
大会は8日間。合間には、みんなで大学を訪ねたり、動物園や水族館へ遊びに行ったりした。
各国の代表が出し物をするパーティーもあった。
日本チームはそろいの青い法被姿。前田さんは得意のブレイクダンスを披露し、日本チームの一人によると、「その夜の主役」を奪った。
オレーナさんは「日本チームが一番クールだった」。声をかけて、一緒に写真を撮った。
大会終了前日。表彰式に続いて開かれたダンスパーティーのあと、芝生に並んで座り、好きな音楽について語り合った。
前田さんが好きなのはロック。オレーナさんは「ハウス系」のダンス音楽。
「面白いくらい、話が合わなかった」(前田さん)が、2人の距離はぐっと縮まった。
やがて、オレーナさんが「疲れた」と言って、前田さんの肩に頭を乗せた。
「嫌われたかも」
そして――。
次の日、前田さんは顔を合わ…