緊急放流ぎりぎりの決断 台風で熊本・市房ダム

吉田啓
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 「大型で猛烈な」と気象庁が表現した台風14号は九州各地に被害をもたらした。熊本県内は18、19日に暴風圏に入り、けが人や橋の損壊の被害はあったが、心配された球磨川の氾濫(はんらん)はなかった。背景には、上流にある市房ダムの緊急放流をめぐる紙一重の判断があった。

 県がまとめた19日午後4時現在の被害状況は、風にあおられて転倒したなどでけがをした人が8人、住宅への浸水や一部損壊の被害が8件あり、錦町の球磨大橋の一部が損壊した。

 県は台風14号による大雨での球磨川の水位上昇を見越して、上流にある市房ダムの貯水容量をあらかじめ増やそうと、15日深夜からダムの水位を下げる「事前放流」を実施した。

 ダム周辺やその上流域では17日から雨が降り続け、線状降水帯も発生して流れ込む水の量が増えた。ダムの貯水能力の限界を超えそうになったため、19日午前2時ごろに緊急放流する計画を立て、流域の市町村などに連絡した。

 だが、午前2時になると「放流1時間延期」の通知を出した。放流を実施すれば、すでに氾濫危険のレベルに達していた下流の球磨川の水位を更に高める可能性がある。ダムへの流入が弱まり、緊急放流せずに済むようにならないか、見極めるためだった。

 ダムの水位は最上部の「天端」にあと約2メートルまで迫ったが流入が弱まる見通しは立たない一方で、球磨川の水位は下がる傾向がみられた。午前3時9分、緊急放流を開始。心配していた氾濫は起きず、やがて川の水位も下がっていった。(吉田啓)