第9回日本人の理想像とは…コンセンサスなき日本で国葬を行う危うさ

有料記事国葬

聞き手・田島知樹
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 国葬愛国心を高め、国民をまとめる力を持ってきました。英国で19日に行われたエリザベス女王の国葬では、様々な立場を超えて死を悼み、祈りを捧げる人々の姿が世界に伝えられました。日本の国葬の議論を外から見つめるニュージーランド・オタゴ大学の将基面貴巳教授(政治思想史)は、「愛国」の視点から安倍晋三元首相の国葬の危うさを指摘します。

インタビューシリーズ「国葬を考える」

安倍晋三元首相の国葬をめぐり、世論の賛否が割れています。首相経験者としては1967年の吉田茂氏以来戦後2例目となる今回の国葬をどう考えたらいいのでしょうか。様々な角度から有識者らに聞きました。

 ――まず愛国とは何でしょうか。

 「愛国とはパトリオティズムの訳語です。私はあえてパトリオティズムという言葉を使うようにしています。愛国というと国家を愛する思想に思えますが、実はそれだけではない。パトリオティズムは本来多様な概念なのです」

 「語源はパトリアというラテン語で、『祖国』を意味します。その歴史は古代ギリシャの時代までさかのぼることができます。なかでも後代に大きな影響を与えたのが古代ローマの政治家であり演説家、哲学者でもあるキケロです」

 「キケロは自然的パトリアと市民的パトリアがあると考えました。自然的パトリアとは、生まれ故郷を指し、空間的で情緒的です。これに対して市民的パトリアとは、自由や平等などの政治的な理念や価値を共有する共同体です。必ずしも国を意味しません」

 「キケロは市民的パトリアを重要視しました。そして市民的パトリアを守るためなら暴政や外敵とも戦って守り抜かないといけない、共通善に奉仕しないといけないと説きました」

 ――現代の「愛国者」よりも広がりのある概念ですね。

 「本来のパトリオティズムの意味が変わったのはナショナリズムの影響です。言語、習慣、文化などをもとにアイデンティティーを共有した集団をネーションと言いますが、このネーションを創造するなかで『ナショナリズム的パトリオティズム』が生まれました。キケロが言った空間的な自然的パトリアに親和性のあるものです。葬儀と愛国の関係もナショナリズムの勃興とともに深まってきたと考えられます」

フランスでは作家ユゴーも国葬に

 ――どう関わってくるのでしょうか。

 「フランス革命以降のフランスを例にあげましょう。革命によって君主や貴族の時代が終わり、庶民の時代となりました。そこで目指されたのが、全てのフランス人にフランス人としての意識を植え付けることでネーションを作り上げることでした。そのための道具となったのが祝典であり、国葬という国をあげての葬儀もその一つです。フランス人にふさわしい人物を祭り、ネーションの意識を作ろうとしたのです」

 「ナショナリズム的パトリオ…

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    平尾剛
    (スポーツ教育学者・元ラグビー日本代表)
    2022年9月27日16時54分 投稿
    【視点】

    このシリーズ、「国葬を考える」は実に読み応えがあります。今回もまたそうでした。 手垢のついた「愛国」という言葉の意味を、語源にまで遡って紐解いた前半部分もさることながら、それをもとに国葬の意義を語っている後半は多くの人に読まれてほしい

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    三牧聖子
    (同志社大学大学院准教授=米国政治外交)
    2022年9月23日21時7分 投稿
    【視点】

    「(国葬が)終わったら反対していた人たちも、必ず良かったと思うはず。日本人なら」。数日前、自民党の二階元幹事長の発言が波紋を読んだ。二階氏は、安倍元首相の国葬をめぐって世論が分断されていることについて「議論すべきではない。控えるべきだ」「み

連載国葬を考える(全20回)

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