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「救える命も救えない」ドラッグ・ラグ深刻な日本、小児がんの裏事情

後藤一也
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 日本では毎年、2千人以上の15歳未満の子どもが、小児がんと診断されている。小児がんの治療成績は良くなっているが、いまも年間500人が亡くなっているとされる。

 その中で問題となっているのは、海外では薬が使えるのに、日本では薬が使えない「ドラッグ・ラグ(新薬承認の遅れ)」だ。9月は小児がんの啓発月間。専門家は「小児がんの薬の開発を優先的に支援する抜本的な改革が必要だ」と訴える。

 成人のがんは肺や胃、大腸、乳房などが多い。だが小児の場合はまったく異なり、患者数が非常に少ない希少がんが多い。希少がんの場合、「年間に新規患者が50人未満」など市場規模が小さく、製薬企業にとっては開発コストのほうが大きい。

 また企業は一度薬を売り出すと、たとえ数が少なくても供給し続けなくてはならない。安定供給への責任が負担となっている。

 米国では小児患者の治療を支援する法整備が進んでいる。2017年に成立したRACE法では、がんの分子標的薬を新しく開発する場合、将来的に小児がんに使えそうであれば小児の治験をするよう製薬企業に義務づけた。

 その結果、2017年から今年3月までに、27剤が小児向けとして承認された。ほとんどが新しい薬剤だ。一方、日本ではこの期間に承認されたのはわずか6剤にとどまる。

 こうした状況を改善し、日本での小児がん治療薬の開発を進めようと、患者団体、医療者、製薬企業の関係者らが集まって「小児がん対策国民会議」が21年に発足した。

 今年8月、国民会議の1周年を記念したシンポジウムで、国立がん研究センター中央病院の小川千登世・小児腫瘍(しゅよう)科長は「海外では薬で治すことができるのに、日本では薬が使えず亡くなってしまうかもしれないという状態です」と話した。

 小川さんは、小児と成人の同時開発を進めるため、企業への効果的なインセンティブ制度の導入や、企業開発が難しい場合に医師が治験できるように公的研究費の増額など、「抜本的な制度改革が必要」と述べた。

 小児がんで6歳の長男を亡くした鈴木隆行さん(40)も講演した。長男の蒼(あお)くんのがんは腎臓にできた希少ながんで、海外では小児でも開発薬の治験が進んでいたが、日本では使えなかった。

 鈴木さんは「もし、小児向けの国際共同治験が日本でもされていたら、薬が飲めて参加できたかもしれません。せっかく開発された薬を、日本にも届けて欲しい」と訴えた。(後藤一也)