第130回松林に漂う死臭と、名のない木製の十字架 400体が埋められた墓地
木々の香りが心地良い松林に、死臭が突然漂ってきた。歩を進めると、60以上の遺体が横たわっていた。
「(身元)不明」
「首に傷」
遺体が収められた白や黒の袋には、そんな文字が記されている。
ウクライナ北東部ハルキウ州の要衝イジューム。
今月11日、約5カ月にわたるロシア軍の占領からゼレンスキー大統領が奪還を宣言した街だ。その外れで、民間人が埋められた集団墓地が見つかった。
21日に記者が訪れると、捜査当局による遺体の掘り起こしが行われていた。
サクッ、サクッ、サクッ。
しめった軟らかい土に刺さるスコップの音。半透明の防護服姿にマスクをつけた捜査員ら3人が、無言で作業をしていた。時折、互いのスコップがぶつかる金属音が響く。
別の場所では、帯状のひもを使って7人がかりで遺体を引き上げていた。穴の深さは1メートルほど。ひつぎに入れられた遺体もあれば、そのまま埋められ、土に覆われたものもある。
顔が真っ白に変色した遺体。膨張して腹の部分が大きくふくれあがった遺体。そばにかがむと、記者の体に小バエが群がった。
「こんなに悲惨な光景を見たのは初めてだ」
州検察トップのオレクサンドル・フィルチャコウ氏(43)は言った。
少なくとも445体が埋められ、女性や子どもの遺体もあるという。
首にロープを巻かれていたり、12カ所も切りつけられたり。なかには、局部を切り取られた男性の遺体もあり、拷問や惨殺の疑いが指摘されている。
体の部位だけが4人分収めら…