第4回発展をもたらした農民工という差別 労働力「使い捨て」時代の終わり
中国の急速な経済成長を支えてきた背景には、いまや3億人に迫る大量の「農民工」がいます。日本では聞き慣れない農民工とはなぜ存在し、どうやって中国を経済大国に押し上げたのか。農民工にも訪れる少子高齢化は今後、どう影響するのか。同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科長の厳善平教授(中国経済)に聞きました。
連載「中国新世 人口減が始まる」
この連載では、中国の少子高齢化を取り上げてきました。豊富な労働力を背景に「世界の工場」と呼ばれ、爆発的な経済発展を遂げた中国でいま、何が起きているのでしょうか。地域の人口減や社会構造の変化によって、国の形や人びとの意識が大きく変わろうとしています。
厳善平さん
げん・ぜんへい 1963年、中国安徽省生まれ。2011年から同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授。専門は中国経済、著書に「中国農民工の調査研究」など。
農民工とは、差別のかたまり
――農民工という言葉は日本ではなかなかなじみがありませんが、どう理解すれば良いでしょうか。
中国の戸籍制度やその役割を理解する必要があります。
基本的には2点。
一つは農業、非農業の区別です。当初、戸籍はいわば身分でした。生まれる前に農業か非農業か戸籍が決まっていたのです。
もう一つは、戸籍の転出入の制限。かつては農村から戸籍を動かすことは出来ませんでした。1954年に制定された中国の憲法では移住の自由が認められていましたが、58年の戸籍登記条例以降に制限されました。
非農業の方が優遇され、受ける教育や医療サービス、就職、さらに計画経済時代には食料などの配給まで、天と地ほどの差がありました。
これは、人為的に作り出された差別です。
この農業戸籍だった人が、よ…