仮釈放中に強盗、日本人女性はねられ死亡 全米注目リコールの引き金

サンフランシスコ=五十嵐大介
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 今年6月、米カリフォルニア州サンフランシスコで、犯罪者の収監数を減らすことを主張してきた地方検事がリコールされた。全米の注目を集めたリコールの引き金になったのは、一人の日本人女性が犠牲となった事件だった。

 9月20日朝、サンフランシスコの裁判所の法廷に、オレンジ色のスウェット、白いマスク姿の男が姿を現した。マスクの横からのぞくひげには白いものがまじっている。スウェットの長い袖をくるくる回しながら、判事の前のいすに座った。

 「今は収監中なのか」。判事が検事らに聞くと、男もうなずいた。この日は検察と被告の弁護人が次回の予備審理を11月と決め、審理を終えた。わずか2分足らずのやりとりだった。

 男はトロイ・マカリスター被告(46)。自動車運転過失致死罪などで起訴されている。2020年12月31日午後4時ごろ、サンフランシスコ中心部の交差点に赤信号を無視して車で突っ込んでほかの車と衝突。近くを歩いていた日本人の阿部華子さん(当時27)と米国人女性を死なせたとされる。

 福島県郡山市出身の阿部さんは日本の高校を卒業後に渡米し、奨学金を得ながら大学を卒業した。18年からサンフランシスコの不動産会社でエンジニアとして働き始めたばかりだった。

 マカリスター被告は、この事件の8カ月前に刑務所から仮釈放されたばかり。車内からは銃と薬物が見つかった。現場近くの飲食店に強盗に入った直後、阿部さんらをはねたとみられている。

 なぜそんな男が仮釈放されていたのか――。娘の死に納得のいかない母親の問いに、サンフランシスコの検察トップの地方検事はあっさり非を認めた。「(仮釈放の判断は)間違いだった」。

 事件の関係者への取材を重ねて浮かんできたのは、刑罰の軽減化をめざした「革新派」検事の存在と、長年米国が抱えてきた刑事司法の課題だった。(サンフランシスコ=五十嵐大介