性犯罪の元受刑者に住所届け出義務の条例案 治療支援の実効性に課題

藤田大道 西崎啓太朗
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 18歳未満に対する性犯罪で服役した元受刑者に、住所の届け出を義務づける性暴力根絶条例の制定を目指している茨城県議会最大会派のいばらき自民党は26日、開会中の9月議会への条例案の議員提出は見送ると発表した。届け出をしなかった元受刑者に過料を科す罰則規定を削除する方向で議論を進めており、11月ごろ開会見込みの県議会への提出を目指す。

 条例案は、性暴力の根絶と被害を受けた人の心身の回復の支援を目指すことを理念とする。18歳未満への性犯罪で服役した元受刑者に対し、出所から5年以内に県内に住む場合は知事に氏名や住所を届け出ることを義務づける。性犯罪は再犯率が高いとされることを踏まえ、住所の把握は、治療や社会復帰の支援につなげる目的だとした。

 26日に記者会見を開いた同党県連の石井邦一政調会長によると、8月から実施していた条例案へのパブリックコメントでは20件弱の意見が寄せられた。その中で、住所を届け出なかった元受刑者に5万円以下の過料を科す条文に否定的な意見が寄せられたという。

 これを受け、元受刑者が住所を届け出る制度は維持するが、過料については削除する方針で議論を進めているという。石井政調会長は、元受刑者の個人情報は法務省から得られないため、住所を届け出なかった人に過料を科すことができるのかという指摘を踏まえたとし、「様々な意見を聞いて条例全体の実効性を高めるため、もう少し時間が必要だ」と説明した。

 条例案をめぐっては、県弁護士会が8月、亀田哲也会長名で談話を発表。前科や犯歴は人の名誉や信用に直接関わるとし、「みだりに公開されないという法律上の保護に値する」と指摘。条例案ではこれが侵害されるおそれがあるとしていた。(藤田大道)

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 18歳未満への性犯罪で服役した元受刑者に住所の届け出を義務づける同様の条例は2012年に大阪府で、19年に福岡県でそれぞれ制定されている。いずれも再犯防止のための支援を目的としているが、実効性には課題がある。

 大阪府によると、条例が施行された12年10月~22年6月に、のべ203人が住所などを届け出た。このうち、臨床心理士などによる心理カウンセリングなどを希望して受けたのは、4割弱の74人だった。19年に公表された府の調査では、18年1~6月に出所者の約63%が届け出たと推計した。福岡県では、20年5月~今年3月に届け出た人は19人だった。

 東京などに拠点を置き、オンラインでも性犯罪者などの治療をしている「性障害専門医療センター」の代表理事で、精神科医の福井裕輝さんは、「届け出によって元受刑者がメリットを感じられる制度にしないと、行政による単なる監視に見えてしまう」と指摘する。

 性犯罪者などの治療は医療保険の適用外のため、福岡県では、10の医療機関と提携し、治療費用の一部を肩代わりしている。ただ条例が施行されてから今年3月末まで、支給したケースはない。担当者は「相談窓口からカウンセリングにつなげたケースはある。治療費用の肩代わりについては、経済状況などを踏まえて必要性を判断している」と説明する。

 県は元受刑者の住所など個人情報について、治療などの目的以外には原則使わないとしているが、福井さんによると、「県に申告すると、情報がどう使われるかわからない」と不安を抱いて届け出をためらう人もいるという。

 福井さんは「再犯率の高い性犯罪は、きちんとした治療が必要だ」と言う。治療費の補助や仕事のあっせんなど、行政ができる具体的な支援をはっきりさせた上で、制度を周知する必要があるとし、「元受刑者はデメリットが大きいと感じてしまい、必要な支援につなげられていない現状がある」と話す。(藤田大道 西崎啓太朗)

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