名優・田中裕子にしかなしえない「演技していないように見える」境地

有料記事

編集委員・石飛徳樹
[PR]

 田中裕子が名優であることは論をまたない。多くの名優と異なるのは、何も演技をしていないように見える点だ。ただそこにいるだけで画面の空気を自在に操る。久保田直監督「千夜、一夜」(10月7日公開)でも、失踪した夫を待ち続ける女性の心の揺れを、セリフも表情の変化も少ない中で、正確に繊細に体現している。

インタビュー取材に応じる機会が多くはない田中裕子さん。貴重な取材の機会に、その「演技に見えない」演技が生まれる背景や、尾野真千子さんとの共演。そして40年を超えた俳優生活でたどり着いたことについて語ってくれました。

 田中が演じるのは離島の水産加工場で働く登美子。夫が失踪して30年、独りで黙々と暮らしている。漁師の春男(ダンカン)に思いを寄せられているが、見向きもしない。ある日、女性(尾野真千子)が訪ねてくる。彼女の夫も2年前に失踪していた。

 彼らはなぜ姿を消したのか。理由が分からない、というのが、残された者にはとてもつらい。分かったと思うことで、人間は前に進むことが出来る。

 脚本は青木研次のオリジナル。田中との仕事は「いつか読書する日」などテレビを含めて4作目になる。田中は言う。「行間に独特の風が吹いていて、ぜいたくな感じなんです。それを伝えるのは難しいけれど、青木さんのセリフを間違えないようにしゃべれたら、何とかなると思いました」

 不器用に言い寄る春男に「鱈(たら)のエサにでもなれ!」と言い放つシーンが印象深い。「ちょっと怒りすぎましたかねえ」と笑いつつ、「ダンカンさん、良かったですよね。私、芝居をしながらも、ダンカンさんがどんな顔をしているか、見ちゃってね。『あ、いいなあ』と思いました」。

今、やっと楽しいと感じるようになりました

 田中の演技は、演技をしてい…

この記事は有料記事です。残り757文字有料会員になると続きをお読みいただけます。
今すぐ登録(1カ月間無料)ログインする

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません。