隠れ待機児童7万人超 定員増でもいまだ厳しい「希望通りの保育園」
「家の近くの保育園でないと通わせられない」「きょうだいで別々の園は困る」「入園が決まらなくて就職活動すらできない」
こうした理由で入園できなかった子どもをもつ保護者の不満の声が一向にやまない。彼らは国が毎年発表している待機児童に含まれない、いわゆる「隠れ待機児童」。今年4月時点の待機児童が3千人を切って過去最少を記録する一方、隠れ待機児童はその24倍の7万人超に上った。
厚生労働省によると、2022年4月時点の待機児童数は、調査開始以来、最少となる2944人。直近のピークだった17年4月の2万6081人に比べ、約9分の1。待機児童ゼロを達成した自治体は85・5%にもなった。
一方、依然として多いのが、保育園への入園希望がかなっていないにもかかわらず、「特定の園を希望している」「育児休業を延長している」などのケースだと判断され、待機児童の数にカウントされない、隠れ待機児童の子どもたちの存在だ。
今春は昨年に比べ1123人減ったものの、7万2547人(国の企業主導型保育事業の利用者も含む)だった。5年前の17年には6万9224人おり、高止まりが続く。
横浜市が今春の待機児童や隠れ待機児童の背景を初めて分析した。
市は認可保育所などへの申し込みをしたものの、入所できなかった児童を「保留児童」としており、育児休業の延長希望者を除いた1647人について、申請書類などにもとづいて分析した。
それによると、対象の保留児童の約7割が育休から復帰する保護者が多い1、2歳児だった。1園のみを希望する「単願」は約3割だったという。
国や自治体はこれまで、入園できる園児の定員拡大を推し進めてきたが、保護者の保育ニーズとの溝は埋まらないままだ。
定員埋まらない園からは経営不安の声
一方、園側からも経営不安の声が上がる。定員拡大に伴って、定員に満たない園も増加。自治体には先行きに不安を抱える園の声が届き始めている。
要因には、国や自治体から給付される運営費が、園児の定員に対してではなく、入園している園児数に応じて支給されることがある。園が定員に応じた保育士らを雇用しても、定員に満たなければ、保育士の人件費などは園側の負担になるからだ。
朝日新聞が今年5月、政令指定市や東京23区、21年4月に待機児童数が50人以上だった自治体に行ったアンケートでも、「いつまでニーズが継続するか不安の声もある」(横浜市)、「在籍する児童の減少に伴い、運営費が減り維持できるか不安」(川崎市)、「運営費の削減が重くのしかかる」(東京都北区)などの声が寄せられていた。
これまで、認可保育園への入園は、進級や卒園によって定員に空きが出やすい「4月」でないと難しい実態があった。ただ、出産や復職を希望するタイミングに合わせ、本来はいつでも入園できるような余裕があることが望ましい。育児不安や入院など、急に保育を必要とする場合にも、定員の余裕は必要だ。 専門家からは、受け皿の量的な拡充に力を入れるだけではなく、より丁寧な要望の把握を進めるほか、質の向上にも軸足を移していくことが必要との指摘が出ている。(中井なつみ)
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