猪木さんが魔法を使った夜 「元気を売る男」が永田町で抱えた孤独

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石井潤一郎
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 「国会に闘魂注入!」

 2013年夏の参院選アントニオ猪木氏は当時の日本維新の会から立候補、当選した。18年ぶりの国政復帰だった。プロレスラーとして高い知名度に加え、独特な風貌(ふうぼう)。故石原慎太郎氏ら個性派ぞろいの維新でも異彩を放った。

 ただ、政治家としては孤独だった。「北朝鮮との交流」を訴え、渡航を繰り返した。参院議院運営委員会の許可を得ずに渡航し、懲罰動議が可決されたこともあった。「ファイティングポーズ」を構えるかに見せつつも、「真摯(しんし)に受けとめたい」と応じる政治家らしさをにじませることもあった。

 維新でも、持ち前の明るさで笑顔を見せてはいたが、一人でいる姿が目立った。党に影響力があるわけではない。維新を担当していた私も遠巻きに見ていた。

 当初はそんな付き合いだったが、たまたま二人きりとなり、「小学生から中学生までレスリングをしていました」と告げると、破顔。「語り合いましょう」とぐっと肩をつかまれた。

 政治家と記者の宴席は、昔はともかく、今は安い居酒屋を使うことが少なくない。とはいえ、人目につかないよう「個室」や「半個室」を選ぶ。この時は猪木氏が店を選んでくれることになっていた。私の懐事情もあり、「なるべく安いところでお願いします」と伝えた。

 猪木氏が選んだのは、都心にほど近い、ブラジルの串焼き料理シュラスコの店だった。猪木氏がブラジル移民の出身であることが影響したのだろうか。高級店ではないことに胸をなで下ろす一方、個室があるのか不安だった。

「君は、政治家として向き合ってくれないか」 バーでの告白

 店に入ると猪木氏が先に着いていた。「おーい」。手を振ったのは満席の店内のど真ん中だった。

 これでは政局の話はできない。そもそも聞いても仕方ないとの思いもあった。

 「世界一強い男は誰だと思いますか?」

 「それはね……」

 こんなやりとりを重ねた。その後も「モハメド・アリとの戦い」の秘話、「飛行機のファーストクラスのワインを俺とあいつで全部飲み干した」という酒豪伝説などで盛り上がった。最後は客にせがまれ、「1、2、3、ダー!」で店を後にした。

 表情が変わったのは2軒目だった。

 客がいない静かなバーで漏ら…

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    前田直人
    (朝日新聞コンテンツ戦略ディレクター)
    2022年10月1日22時57分 投稿
    【視点】

    猪木さんは、政治家としてつきあってくれる政治記者を求めていたんですね。だとしたら、正面から取材に行けばよかったと、大いに後悔します。アントニオ猪木は偉大な格闘家だと思ってはいますが、政治家と見なしていなかったなどということはありません。