第1回私が収容された悪名高き刑務所 刑務官が自腹でサンダルをくれた理由
荒々しくドアがノックされる音に、胸騒ぎがした。
2021年4月18日午後7時半。
ミャンマーでフリージャーナリストとして活動していた北角裕樹さん(46)は、ひとりでヤンゴンの自宅にいた。
クーデターに関するオンライン勉強会を、パソコンでちょうど視聴し終えたタイミングだった。
そのころ、北角さんの自宅周辺では国軍のクーデターへの抗議デモが盛んだった。
夜になると国軍兵士は隊列を組んで周辺を練り歩き、住宅の窓を割ったり、サーチライトで部屋を照らしたりする嫌がらせをした。
再びドアをノックされ、恐る恐るドアを開けた。
数人の男たちが立っている。
胸の「POLICE」のマークが反射して輝いていた。
思わず後ずさりした。
「まずいな。ここにもきたのか」
悪い予感が脳裏を駆け巡った。
【連載】インセイン刑務所 北角裕樹のミャンマー獄中記
ミャンマーには、軍政時代に人権侵害が横行した悪名高い刑務所がある。インセイン刑務所――。かつてはアウンサンスーチー氏も収容され、現在は国軍への抗議デモに参加した市民が次々と収容されている。その内部の実態とは。昨年、ミャンマーで拘束され、実際に独房で過ごしたジャーナリストの北角裕樹さんが体験を語りました。
「抵抗しないから、部屋に入るのはひとりにしてくれないか」
懇願する北角さんに構うことなく、ずかずかと警官たちは部屋に入ってきた。
周囲から「ミリタリー・インテリジェンス」と呼ばれていた私服の軍人がひとり。
入国管理局の職員がひとり。
武装した警官が数人いた。
アパートの周りはさらに大勢の警官たちが取り囲んでいた。
捜索令状も逮捕令状も示されない。
「ドント、スピーク」
容疑は何かと聞くと、英語で私服軍人に怒鳴られた。
座るよう命じられ、警官たちが部屋の捜索を始めた。
「突然やってきて、なんなんだ」
困惑と焦り、腹立たしさが入り交じった気分になった。
運悪く捨て忘れた1枚のビラ
段ボール箱にパソコンなどを次々と押収された。
そのうちひとりが、政治犯の解放を訴えるビラを見つけた。
私服軍人がビラを北角さんに突きつけて言った。
「どうしてこれを持っているのか」
街で抗議デモを取材している…