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医療的ケア児も学校に通いたい 看護師増員へ、立ち上がった保護者ら

林利香
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 胃ろうやたんの吸引などの医療的ケアが必要な子どもたち177人が県内の特別支援学校に通っている。学校や自治体に看護師などを配置するよう求める「医療的ケア児支援法」が施行されてから9月で1年。滋賀県立草津養護学校草津市)では、学校看護師が不足し、医療的ケア児が通学できないケースが出ている。看護師の増員を求め、保護者らは立ち上がった。(林利香)

欠員時やむなく欠席

 2学期が始まり1週間経った9月7日、県立草津養護学校に通う医療的ケア児の保護者に「学校看護師欠員」と書かれたプリントが配られた。

 「8月31日に学校看護師1人が退職したため補充を探しています」。保護者に付き添いをお願いする内容だった。週明けからの付き添い日も指定されていた。

 医療的ケア児の胃ろうやたん吸引などは医療行為とされ、ケアは家族や医師、看護師に限られている。

 同校によると、学校看護師を1日9人配置しているが、看護師の1人が8月末に退職した。このため医療的ケアができなくなり、保護者に月2回程度、授業中の付き添いを求めた。保護者が付き添えない子どもは学校に通えなくなった。

 同校は大津、草津両市内の医療的ケア児36人が通っている。昨年4月と今年4月にも看護師が足りず、子どもが通学できないケースが出ていた。

 一部の保護者や教員らは今春、重症度に応じた看護師の配置や通学支援を求める会を設立。署名活動を始めた矢先だった。会長の森田佳世子さん(50)は「欠員が出るのは仕方がないことだが、同じことが3回も起きている。数年前から学校や看護師は県教委に増員を要望しているのに何も変わっていない。看護師の数に余裕がないのが問題だ」と訴える。

 稲葉芳子校長は「学校に来られない子どもには申し訳ない」としたうえで、欠員について「コロナによる医療現場の看護師不足の影響や人工呼吸器を扱う不安もあるのではないか」とみている。

 そのうえで「県には医療的ケア児の重症度に応じた看護師の配置を要望したい」と話す。

2、3分に1回吸引

 9月末、記者は県立草津養護学校を見学した。

 「おはようございます。最後の水分補給はいつですか?」。午前9時半、次々に保護者が車で子どもを送ってきた。校舎1階の教室で、学校看護師や教員が子どもたちの様子を尋ねる。

 人工呼吸器を付けた車いすの医療的ケア児が教室のベッドに移動する際、いったん呼吸器を外さないといけない。教員に抱えられた児童の横で、呼吸器を外し手動のポンプで補助するのは看護師の役目だ。酸素濃度を知らせるモニターをチェックしたり、たんの吸引をしたり。一連のケアは医療行為とされ、看護師しか担えない。

 午前11時、学習が始まった。教員が足湯を準備し、児童の足をさすると、児童は気持ちよさそうな表情を見せた。看護師はその間、昼食の経管栄養剤の準備をしながら後ろでそっと見守った。

 看護師が一番忙しいのは昼食の時間帯だ。正午、中学1年から3年の生徒5人の教室では、担任3人と看護師1人が慌ただしく昼食の準備をしていた。この教室には人工呼吸器の生徒が3人在籍している。

 看護師がのどの分泌物を吸引したり、鼻から胃に通した管に栄養を注入したりと教室を動き回る。昼食後はたんが多く出るようになり、2、3分に1回は吸引するという。

 同校の看護師、皆木留美さん(43)は「中等や軽症の子は看護師1人で8人を見ている教室もある。全く余裕はない。看護師はお昼ごはんも10分でかき込んでいる」と話す。

 県は2005年度から、児童・生徒4人に看護師1人の基準に沿って配置する。同校によると、05年度に19人だった医療的ケア児は今年度36人。05年度には人工呼吸器を付けた児童・生徒はいなかったが、今年度は計11人が通学する。

 皆木さんは「重症度の高い子どもが増え、最新の医療機器を持って登校する。看護師の役割が高まっている」と話す。そして「17年前の基準が変わっていないことが一番の課題。子どもの重症度に応じた配置基準をつくってほしい」と訴える。

 教員の一人は「友だちがいる中での学校の学習は子どもたちの表情や反応が全く違う。医療的ケアの子どもたちにも同じ教育を受ける環境を整えてあげたい」と話す。

 県教委教職員課は「従来の算定基準では重症度は考慮されていなかったが、今年度から人工呼吸器を一定程度考慮している。重症度の高い子どもが増えており、2年連続で保護者の付き添いが発生していることを踏まえ、来年度予算に向けて考えたい」としている。

通学率98%最多「全国モデルに」

 文部科学省によると、2021年度の県内の特別支援学校に通学する児童生徒は172人。学校に在籍している子どもの98%が通学し、全国最多の割合だ。

 小学部3年の斉藤緑さん(8)は、24時間人工呼吸器を必要とする。

 母親の綾さん(46)は「通学を許可してもらったことには感謝している」と話す。だからこそ、「通学が進む滋賀県が全国のモデルとして、重症度の高い子どもが増えている今を転換期に、看護師の(新たな)基準をつくってほしい」。

 看護師だった綾さんは緑さんの出産を機に、離職した。緑さんが小学部に入学した1年間、毎日通学できたことをきっかけに、綾さんは地元の小学校の看護師として復職した。「やっと復職して自分の人生を生きていけると思った」

 だが、看護師の欠員が生じて、昨年度からたびたび付き添いを求められた。綾さんが仕事に行けなかった日や緑さんが学校を休まざるを得なかった日が、数回あった。

 学校に看護師を配置するなど必要な措置を講ずることを自治体の「責務」と明記した「医療的ケア児支援法」が昨年9月に施行された。支援法は「家族の離職の防止」という記載がある。綾さんも支援法に希望を抱いた保護者の一人だ。

 綾さんは「障害のある子もその親も社会の一員になりたいんです。学校で友だちと人間らしく過ごせる受け皿を整えてほしい」と話す。

 保護者らは、学校看護師を充実させるため、配置基準の見直しなどを求める署名を集めている。年内にも県教委に提出する予定だ。