インフル治療薬「タミフル」とHPVワクチン 副作用めぐる共通点

酒井健司
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 この2年ほどインフルエンザが流行していませんのでみなさまお忘れかもしれませんが、インフルエンザ治療薬のタミフルで異常行動が起きるかもしれない、という話を覚えておいででしょうか。10歳代のインフルエンザ患者がタミフル服用後に自宅マンションから転落した事例などを受け、10歳以上の未成年の患者について原則としてタミフルの使用を差し控えるよう、2007年に緊急安全性情報が出されました。その後も調査は継続され、約10年後の2018年にタミフルと異常行動の因果関係は明確には分からないとして、使用の差し控えは解除されました。現在は、10歳代の患者にもタミフルを使用できます。

 タミフルが異常行動の原因ではないなら何が異常行動の原因なのでしょうか? 実は2007年の時点で、タミフル投与の有無にかかわらず、インフルエンザにかかることで異常行動が起きうることは専門家の間ではよく知られていました。継続された調査においても薬を投与されていない患者の異常行動が報告されています。

 タミフルを投与された後に異常行動が起きたからといって、タミフルが異常行動の原因とは限らないのです。タミフルが異常行動のリスクを上げる可能性はありましたので、2007年の時点でいったん原則中止とした判断は問題ありません。その後の調査では、薬を投与された患者との間に大きな差は観察されず、タミフルによるリスク上昇はないか、あったとしてもきわめて小さいと言えます。ただし、個別の事例で「因果関係がない」とは断言できません。

 HPVワクチンの事情とよく似ています。HPVワクチンは、2013年に定期接種になったものの同年に積極的な接種の推奨は差し控えられました。HPVワクチン接種後に、痛みやしびれ、不随意運動といった多様な症状が報告されたためです。ですが、こうした多様な症状はHPVワクチンが原因とは限りません。

 その後の調査では、HPVワクチンとこうした症状のリスク上昇との関連は観察できませんでした。日本で行われた「名古屋スタディ」がよく言及されますが、HPVワクチンの安全性は世界中で調べられており、十分に安全であるというのが国際的にもコンセンサスです。ただし、個別の事例で「因果関係がない」とは断言できないのは、タミフルもHPVワクチンも同じです。

 2021年にHPVワクチンの積極的な勧奨が再開し、2023年から9価HPVワクチンも定期接種の対象になる予定です。しかし、2013年から2021年の間に日本のHPVワクチン接種率はかなり低下しました。

 その影響によって今後約5000人の子宮頸(けい)がん死が増加するという推計もあります(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32057317/別ウインドウで開きます)。定期接種期間内と比べるとワクチンの効果は落ちるものの、「キャッチアップ接種」といって平成9年度~平成17年度生まれの女性はあらためて接種の機会があります。キャッチアップ接種によって約3000人の子宮頸がん死を防ぐことができるとも推計されています。

 薬やワクチンには副作用はつきものですし、かつて薬害が起きた過去を忘れてはいけません。ですが、薬やワクチンの危険性を過度にあおり使用を制限すると、今度は得られたはずの恩恵を得られない人たちが出てきます。「適切な慎重さ」が必要なのです。(酒井健司)

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酒井健司
酒井健司(さかい・けんじ)内科医
1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。