熱戦の夜、まさかの着信 今夏の甲子園わかせたライバル対決の後日談
山口裕起
「えっ、ウソやろ」
あのとき、18・44メートルの距離にいた2人は、まったく同じ感情を抱いていた。
どよめきに包まれる真夏の甲子園球場。
ライバル同士の最後の対決は目をあわせることもなく、終わった。
8月18日、第104回全国高校野球選手権大会の準々決勝第2試合は近江(滋賀)と高松商(香川)の顔合わせだった。
5―3と近江が2点をリードして迎えた七回、高松商は1死一、二塁の好機で浅野翔吾に打席が回った。
近江のベンチからマウンド上のエース山田陽翔(はると)のもとへ伝令が送られる。
ここまで本塁打を含む3打数3安打の浅野に対し、多賀章仁監督(63)の指示は「敬遠」だった。
塁が埋まっている状況で、さらに満塁にピンチを広げても、浅野との勝負を避けようというのだ。
「申告故意四球」の文字が大型スクリーンに表示された。山田は悔しそうに顔をしかめた。
「屈辱でした。ほんま、情けないなって」
そう振り返る。
浅野は驚きながらも、にやっと笑って一塁へ向かった。
「まさかでした。まったく予想もしていなかった」
この夜、浅野は、山田からの着信にさらに驚かされることになる。
2人はこの世代の、投打のス…