VR(仮想現実)を体験できるゴーグルをかぶる。目を開くと、そこは大学の教室。首をうしろに向けると、黒板。下をむくと、自分も椅子に座っているようだった。
「私、トイレに行ってくるね。荷物みといて」
ゴーグルに内蔵されたスピーカーから声が聞こえた。VR内で横に座っていた女子学生が、教室を出ていくのが見えた。
急に視界の下から手が伸びてきた。「自分」の手だ。出て行った女子学生のリュックを触り始める。前ポケットをあけ、中に入っていたポーチから指輪を取り出す。しばらく眺めたあと、自分のリュックのポケットに、指輪を隠した。
先ほど出ていった女子学生が戻ってきた。「食堂に行こう」と誘われ、自分も立ち上がった。
映像はここで終わった。
明治学院大(東京)で行われている心理学の実験で使うVR映像だ。被験者にこの映像を見てもらい、犯人役を体験してもらう。その上で、ポリグラフ検査(うそ発見器)をして生体反応をみるという。
卒業研究として実験をしているのは、4年生の福本真菜美さん(21)と渡辺裕加さん(21)。映像も自分たちで撮影した。VRを使うことは、萩野谷俊平専任講師の助言だった。2人は「普通の映像だと、どうしても第三者として見てしまう。VRだと当事者視点になって自然に入り込める」と話す。
VRを活用した授業が広がっています。医学部などの演習で使われるほか、文系の学びでも活用が始まっています。どんな授業を行っているのでしょうか。VRを使うことで、これまでと何が変わるのでしょうか。
360度、リアルな視線を実現
萩野谷さんは、以前からVRを実験や授業に採り入れてきた。昨年3月まで勤めた海外の大学では、目撃証言の「正しさ」を学ぶ授業で使ったことがある。
一例としては、カフェテリア…