第1回体内に残るC型肝炎ウイルス 動物実験を受けたチンパンジーの余生

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杉浦奈実
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 「オッオッ」

 「ギャー」

 ひと気のない静かな山あいに、ときおり鳴き声が響いていた。

 建物のひとつにある、医療機器が並ぶ一室では、特任研究員の森裕介さん(61)らスタッフ4人が、32歳のチンパンジー、雄のトーンの健康診断をしていた。

 麻酔で眠るトーンは体重60キロ余り。体勢を変えつつ、身体測定や採血、エコーといった検査を30分ほどで手早く丁寧に進めていく。

 こうして、チンパンジーの恐怖心を取り除き、落ち着いて健康診断ができる関係をつくるのには長い時間がかかる。

 ここに暮らすチンパンジーのほとんどが以前、製薬会社や大学の研究室で動物実験に使われていたからだ。

有明海を見下ろす熊本県宇城市の高台に、「聖域」と名付けられた施設があります。かつて、医療の発展のために動物実験を受けたチンパンジーたちが暮らしています。9月末、記者が一般には非公開のこの施設を訪ね、チンパンジーたちの現状と、関係者たちの思いを聞きました。

 研究室では、効率的に実験を進めるため、狭い箱の中で肩を固定され、注射を打たれることもあったという。

 このため最初は人間に不信感を抱き、注射を怖がるチンパンジーが多く、細い針を使ってゆっくり打つなどして少しずつ慣れてもらう。

 「親切にすると、向こうも親切にしてくれます。お互いに信頼関係を築くと、注射も打たせてくれるようになります」。心電図などの検査は麻酔を打たないでこなせるようになることもあるという。

かつて関わった実験 廃止が心底うれしかった研究員

 森さんが働くこの施設は「京…

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    太田匡彦
    (朝日新聞記者=ペット、動物)
    2022年10月24日17時3分 投稿
    【視点】

     1990年代後半、感染実験を含む医学研究に使われるチンパンジーは国内に最大約130頭いました。でも2006年、学識経験者のグループの訴えなどを受けて、チンパンジーに大きな影響を与える実験の廃絶が宣言されました。感染実験などに使われていたチ

連載チンパンジーたちの「聖域」 医療実験のその後(全3回)

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