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「俺たち全然ダメ」コロナ研究で感じた経験不足 1歩目が遅い日本

有料記事新型コロナウイルス

聞き手・後藤一也
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 日本は感染症にきちんと向き合ってこなかったのでしょうか。新型コロナウイルスの流行で明らかとなった日本の研究体制について、政府の新型コロナ対策の有識者会議で座長を務めた永井良三・自治医科大学長は「日本からの論文数は先進国の中でも下位」と、厳しく指摘しました。流行の初期から対応にあたってきた、国立国際医療研究センターの大曲貴夫・国際感染症センター長に医療現場の視点から、日本の研究力をどうみるか、聞きました。

 ――これまでの流行を振り返って、研究がうまく進まないと思った場面はありましたか。

 無数にあります。日本の医療現場は、そもそも研究ができるほどの十分な体制ではないからです。

 ある先生が「これまで草野球しかやったことがないのに、突然メジャーリーグでホームランを打てと言われた」とおっしゃっていました。

 本当にそうだ、と思いました。

 今回のような新しい感染症が発生した場合、日本では感染症指定医療機関が診療の中心になります。でも、そこでの感染症診療の体制は必ずしも十分ではありません。感染症指定専門医がいない感染施設も山ほどあります。専門医がいても、感染症の専従スタッフの数がすごく少ないこともあります。後進を育てたくても、病院の中では教えることができない。

 感染症科の医師がいても、国内では感染症科の医師が活躍する場面が少なく、病院の収入にはつながらない。置く理由がないのです。

 こうした感染症指定医療機関で患者さんを引き受けるわけです。少ない感染症の専門家が、診療、行政との連絡、院内体制づくりのための調整など、すべてを担います。それだけで、手いっぱいなのが正直なところです。

 ――感染症の臨床現場の体制が十分ではないのですね。

 感染症指定医療機関の多くは、一般の医療機関です。大学病院のような特定臨床研究中核病院ではないため、基本的に研究機能は弱い。研究に使う検査機器、実験機器、研究に関われる人材、薬の治験をサポートする職種の人も極めて少ない。設備や研究全体を支えてくれるスタッフがいなければ、研究のスピード感も規模感も出ません。

 しかも研究に対して補助は出ません。

 厚生労働省が定めた感染症指定医療機関の施設要件に「研究機能」という項目がないからです。その結果、寝る時間を削って患者のデータを集めることになるのです。

 「研究機能が弱いから、大学を充実させなければいけない」「研究機関との連携を進めないといけない」とよく言われるのですが、そもそも病気がわからないと対応できません。

 患者さんからいただく貴重な検体がないと、病気の原因となる細菌やウイルスなどが得られない。臨床の情報がないと先の研究はできないのに、臨床の現場が十分ではないわけです。

 こういう状況の中、1、2の3でダッシュをして、「創薬とかワクチンにつなげよう」と言われても、車を走らせようにもタイヤが付いていないので、動きようがないわけです。

 研究とは、実験室だけじゃない、製薬企業だけでもない、大学だけでもない。患者から始まり、臨床現場があって基礎研究があり、応用研究から開発へと向かいます。すべてがきちんとつながらないと、動かないのです。

バラ色でなくなった感染症研究

 ――なぜ、研究ができる体制になっていないのでしょうか。

 日本は、感染症に本気で向き合ってきた国じゃない気がします。これまで、あまり大きな問題にもならなかった。

 私が感染症医になったのは…

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    蟹江憲史
    (慶應義塾大学大学院教授)
    2022年11月7日13時34分 投稿
    【視点】

     この記事を読み、研究をめぐる状況が日本ではどこでも同じだ、と実感しました。   『研究とは、実験室だけじゃない、製薬企業だけでもない、大学だけでもない。患者から始まり、臨床現場があって基礎研究があり、応用研究から開発へと向かいます。

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