第3回雑談できぬ発達障害の夫、妻はうつ病に それでも諦めない家族の再生
熊井洋美
【A-stories】「ツレ」が発達障害 ふりまわされる、でも愛している
物静かで誠実な人柄。大学を卒業後は、金融関係の会社に20年近く勤務――。
知人から紹介された夫(58)は、文句のつけようがない経歴の持ち主だった。
礼儀正しい振る舞いにもひかれ、女性(57)は出会って3カ月ほどで結婚した。17年前のことだ。
しかし、まもなく、違和感を抱き始めた。
新婚旅行の初日、南紀白浜のホテルのスイートルームに宿泊した。
優雅な空間とオーシャンビューに、2人とも大はしゃぎ。夫はつい、調度品の大きなランプを床に落として壊してしまった。
フロントに連絡をしなくては。受話器を取りかけた女性を夫は制し、携帯電話で保険会社に電話し始めた。弁償可能かどうかを調べるという。
え? この人は何を言っているの?
「まず最初にやることは、ホテルの人に謝ることだよね。それが当たり前だよね」
女性がいさめると、夫はその場で固まりながら言った。
「謝る理屈が、意味がわかんない」
部屋に来たホテルのスタッフは、「おめでたいご旅行なので弁償はいらないですよ。おけがはありませんか」と気遣ってくれた。
恐縮する女性とスタッフのやりとりを、夫はぼうぜんと眺めるだけだった。
「疲れているのかな」
その時はそう思った。だが、不可解な行動はその後も続いた。
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