第1回独裁者を追放した若者が、強権政治に歓喜する 「革命の物語」はいま
確かにあの日、彼は革命を叫んでいた。
ただ、想像できなかった。
世界を揺るがす革命が本当に起きるとは。その革命に挫折があるとは。
ラミー・スガイェル。当時24歳。
独裁打倒を叫ぶ民衆デモの先頭に立ち、仲間を鼓舞する彼の写真がある。フランス人のカメラマンが撮ったのは2011年1月のことだ。
まもなく、夢は現実となった。23年間君臨した独裁者が飛行機で国外逃亡した。
それから11年。今年7月25日夜、ラミーはあのデモの現場からほど近いカフェにいた。
集まったのは男女7人。
あの当時、革命を叫んだ同志たちは、みんな30代半ばになっていた。
この日、革命は重大な転機を迎えていた。大統領が議会を閉鎖し、再び独裁に道を開く新憲法案の国民投票が強行された。
「大統領はいつか、こういうことをやると思っていた」「彼はそういう男だ」
ビール瓶が20本ほど空になった。
午後10時すぎ、国営テレビが速報ニュースを流した。「新憲法への賛成は9割以上」
路上で賛成派が歓声を上げている。
黙ってたばこを吸っていたラミーが私に言った。
「実は朝、投票に行った。賛成に印をつけた。たぶん俺だけじゃない」
独裁を倒すため、路上デモに青春をかけた革命世代。彼らに何があったのか。
未完の革命 「アラブの春」震源地からの報告
地中海に面する北アフリカのチュニジアで2011年、強権支配を続けるベンアリ大統領に抗議する民衆デモが拡大し、23年間続いた独裁政権が倒れました。民主化の波はその後、アラブ諸国全体に波及し、「アラブの春」と呼ばれるようになります。それから11年、各国で民主化は行き詰まり、最後に残ったチュニジアも独裁回帰の瀬戸際にあります。何が起きたのでしょうか。革命の当事者らの証言を2回にわけて紹介します。
ラミーは一目置かれる存在だ…