「もう家族と連絡は取らない」。マルチ商法にはまった大学生の長男(22)は、幹部や仲間に心酔し、心まで支配されてしまっていた。話が通じなくなっていく長男を目の当たりにし、「カルトにも通じる苦しみ」と訴える関東地方の50代の女性に話を聞いた。(小林未来)
きっかけはSNS
長男がマルチ企業の会員になったのは2年前。「SNSで面白そうな連絡が来た」。女性は「気をつけて」とだけ声をかけた。マルチもビジネスの一つという認識で、会員仲間とオンラインで話す長男がそれまでになく生き生きしていたからだ。コロナ禍で大学生活が絶たれていたこともあり、「同世代のつながりができるなら」と思った。
この企業はウェブサイトなどで「働く場所や勤務先にとらわれず、好きなことをしながら生きられる世界がある」と呼びかけ、その方法を学べる教材動画を会員向けに配信するとうたう。入会金は十数万円、月会費は1万~2万円、新会員を勧誘できれば報酬が出るとする。優雅に暮らす会員の生活も紹介している。
女性は「長男には普通に就職することへの不安や、何かで成功したい気持ちがあり、聞こえのよいキラキラした世界にとりつかれてしまったのだろう」と振り返る。
入会して4カ月後。長男は「もう連絡は取らない。学費も払わなくていい」と手紙を残し、家を出た。スマートフォンのメッセージはブロックされ、警察や大学にも相談したが、居場所はつかめなかった。
「普通に暮らしていて、家族が突然失踪するなんて」。眠れない日が続いた。
「自己開示で心が楽に」。記事後段ではマルチにとりつかれていった大学生の様子を描きます。契約トラブルだけでないマルチの被害とは―。
家を出て約10カ月後。長男…
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