第2回いぶりがっこ作り続けるか、やめるか わが家の味「断絶」に悩む農家
「ご飯のお供」として食卓に欠かせない漬物の販売に、大きな変化が迫っている。その背景にあるのが、昨年施行された改正食品衛生法だという。
漬物の専門家である東京家政大客員教授の宮尾茂雄から「農家が作っている『いぶりがっこ』は特に影響を受けている」と聞き、記者は5月のゴールデンウィーク明け、その現場へと向かった。(文中敬称略)
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秋田県の日本海側にある秋田駅から車を1時間超走らせると、県南東部の横手市にある山内という山間部の集落に着いた。
岩手県との県境にある集落は棚田で彩られ、山菜が自生する。訪れたこの時期、ウグイスをはじめとする野鳥のさえずりが響き渡っていた。
この小さな集落が、いぶりがっこの名産地とされている。
いぶりがっこは、煙でいぶした大根をぬかに漬けた秋田独特の保存食だ。今では全国に知られるようになったが、もともとは雪のため屋外に干せない大根を家のいろりの上に干したのが始まりだと言われている。冬になると交通手段が閉ざされる集落で、食料を確保しておくための生活の知恵だという。
山内集落では約100戸の農家が、畑で取れた大根を煙で数日間いぶし続け、それを漬けて「我が家の味」に仕立てる。
道の駅のいぶりがっこ売り場をのぞくと、生産者の名前が書いた札がずらりと並んでいた。家庭によって味が違うことがよくわかる。
横手市では、いぶりがっこの品評会「いぶりんピック」を2007年から毎年のように開催し、いぶりがっこを全国区へと後押ししてきた。
いぶりがっこは、農家が、地域が、手を携えて紡いできたものだ。
「毎日悩みましたよ。どうし…
- 【視点】
19世紀後半の細菌の発見によって人は、「細菌のモグラ叩き」という幻想にふけることになった。 医療人文学者のカリ・ニクソンの言葉です。(『パンデミックから何を学ぶか-子育て・仕事・コミュニティをめぐる医療人文学』桐谷知未来訳、みすず書房