国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)が6日、エジプト・シャルムエルシェイクで始まりました。異常気象や災害が頻発するなか、国際社会は脱炭素社会に進む勢いを維持できるのか。現地で取材をする記者が動きを連日、報告します。(日付は現地時間)
■15日目(11月20日)
半月にわたって開催されたCOP27。もめにもめた会議は1日延長された19日にも終わらず、徹夜で議論を続けて20日の午前、ようやく決着しました。
温暖化の被害に苦しむ途上国を支援する新たな基金の設立は、島国などの途上国が30年にわたり求めてきたもので画期的です。
ツバルなどの島国グループ「AOSIS」は20日、「私たちの全世界にとっての勝利」「損失と被害基金を運用し、すべての人にとって安全で公正かつ公平な世界を作り続ける」との声明を発表しました。
NGOも「長年の懸案だった新しい基金の礎を築いた」(グリーンピース東南アジア)、「気候災害に苦しむ脆弱(ぜいじゃく)な国々の人々の人権を守るための重要な突破口となる」(350.org Japan)などと好意的な評価をしています。
基金による支援の対象はどの国か。どの主体が資金を出すのか。詳細な制度設計は来年のCOP28に委ねられました。先進国だけでなく、排出を増やしている中国やインドなどの新興国、温室効果ガスを多く出す化石燃料企業などは拠出を求められることになるのか。対立を含む論点があり、向こう1年間は曲折がありそうです。
一方で温室効果ガスの排出削減については、「1・5度目標」や石炭火力の段階的削減など、画期的だった昨年のCOP26の合意内容の踏襲にとどまりました。「コピペ」(NGO関係者)ならまだしも、排出削減対策の「抜け穴」が懸念される仕掛けが施されていました。
合意文書が再生可能エネルギーに加え、「low emission energy」(低排出エネルギー)も重要な排出削減対策として認めた点です。
具体的な定義は議長国から示されておらず、日本政府は早くも石炭火力発電にアンモニアを混ぜて二酸化炭素の排出を減らす手法を低排出に「含まれる」(経済産業省)との考えを示しています。
この手法は技術的に高度でコストが高いことなどから実用化のメドは立っておらず、環境NGOなどからは石炭火力の「延命」との批判がつきまといます。
この文言は、閉幕会合が開かれる直前、20日午前3時の最終合意案で初めて盛り込まれました。議長国のエジプトは、エネルギーの多くを天然ガスに頼っています。また、サウジアラビアなどの産油国は化石燃料を燃やした時に出る二酸化炭素を回収し、地中に埋める「CCS」と呼ばれる手法の導入に積極的です。
深層は取材がまだ足りていませんが、焦点だった化石燃料の削減問題で強硬に反対していた産油国の意向を、土壇場になって議長国が反映して妥協に至った可能性があるのではないかとみています。
原発事故後、化石燃料への依存を強めた日本にとって、エネルギー需給の観点からは歓迎する向きもあるかもしれません。
来年のCOP28は、CCSに熱心なアラブ首長国連邦が議長です。安易に「抜け穴」を広げるような手綱さばきにならないか、心配です。また、日本が「共犯」になってはならない。そんな思いが徹夜明けの脳裏に浮かびました。(関根慎一)
■14日目(11月19日)「とうとう来た」 怒りと歓迎、交錯する延長戦
国連気候変動会議(COP27)は延長戦に突入しました。
会場には、政府交渉団とメディア、NGO関係者らがいるくらいで、前日までとは打って変わって、がらんとしています。パビリオンでは撤収作業が始まっていました。
それでも会場内では慌ただしい動きがあります。
19日午前10時半、議長のシュクリ・エジプト外相がメディアの前に現れました。前日、交渉がまとまらないため、会期延長を発表していました。
この日、議長国が各国の意見をまとめて作った成果文書の草案ができたことを説明し、「大半の交渉団はテキストはバランスがとれていて、革新的な内容だと考えている。まだ交渉団は文書をさらに検討する」と話しました。
しかし、「バランスがとれている」という言葉とは裏腹に、午後、いくつかの草案が公開されると、歓迎する声と、怒りともとれる反論の両方が相次ぎます。
温暖化の影響がすでに起きている途上国に対する救済策「損失と被害」に関する草案には、途上国が求めた基金の設立が明記されました。
その範囲は欧州連合(EU)が提案していた「脆弱(ぜいじゃく)な国に限定する」という内容ではありませんでした。
この草案に、基金の設立を強く求めていた途上国の交渉グループ「G77」からは喜びの声があがります。
ギニアの交渉官はツイッターに「30年間の忍耐。とうとうこの日が来た。世界中の市民にとって、勝利する特別な瞬間だ」と投稿しました。
今夏、洪水で甚大な被害を受けたパキスタンのレーマン気候変動担当相も「ポジティブな成果は近い。途上国が基本的に求めていたものだ」と歓迎するツイートをしています。
一方、排出削減などの緩和策については、昨年のCOP26から大きな進展がない内容です。
昨年のCOP26で初めて合意した石炭火力発電の「段階的削減」という表記や、「気温上昇を1・5度に抑えるための努力」などの表現については、もっと踏み込み、「すべての化石燃料の段階的削減」と記載することを求める声もありましたが、草案には盛り込まれませんでした。
欧州委員会のティマーマンス上級副委員長は記者団の前で「排出量を十分削減し、1・5度目標を堅持しないと、災害によって起きる悲劇に対応できるだけのお金はこの地球上にない」と語り、温室効果ガスの排出削減対策が足りないと批判しました。
各国が排出量の高い削減目標を掲げることを目指すグループも会場内で会見し、マーシャル諸島やデンマーク、ドイツ、スペイン、英国などの代表者らが出席しました。
すべての化石燃料の段階的廃止への道筋、G20の排出削減目標の引き上げなど、排出削減対策への取り組みの強化を盛り込むよう求め、「排出削減対策と、『損失と被害』への救済策の両方が必要だ」と強調しました。
その後、議長国、各国の大臣を交えた議論は夜まで続きました。
(改めてチェック)温暖化、減らない排出と増える被害 COP27、議論の注目点は?
ロシアのウクライナ侵攻で当面のエネルギー確保に各国の関心は強まるが、気候変動対策が待ったなしの状況に変わりはない。対策のあり方をめぐり溝がある先進国と途上国は、歩み寄ることができるのか。主な争点を探った。
【そもそも解説】元外交官に聞くCOPとは? 脱炭素めぐる「戦場」
気候変動問題を担当した元外交官の前田雄大さんは、交渉の場は「戦場」だといいます。何が話し合われているのでしょうか。
議論佳境で日本の大臣は
西村明宏環境相は議論が佳境のさなか、週明けからの国会に出席する必要があるため、帰国の途に就きました。国民の代表である議員からの質疑を受ける機会は重要ですが、答弁するのは必ずしも大臣でなくても良いと思うのです。そのためにも副大臣、政務官がいるのですから。
世界や日本の行く末を決めるこれ以上なく重要な国際会議を、国会の慣例を理由に途中離脱しなければならないのはあまりに杓子定規(しゃくしじょうぎ)。柔軟な運用を国会に求めたいと思います。(合田禄、関根慎一)
■13日目(11月18日)「いつ返済?」10歳演説に拍手の波 27歳閣僚も交渉に参加
国連気候変動会議(COP27)は当初予定していた「最終日」を迎えましたが、会期の延長が決まりました。
ただ、この日は今回最大の焦点の一つになっている「損失と被害」で大きな動きがありました。
「損失と被害」とは、温暖化の影響がすでに起きている途上国に対する救済策です。
17日夜、欧州委員会のティマーマンス上級副委員長が「妥協点を見つけるという精神からだ」と話し、損失と被害の救済のために特化した基金をつくる提案をしたのです。
これまでの交渉では、途上国が損失と被害の救済のために特化した基金の設置を求めていたのに対し、一部を除く先進国は強く反対していました。
EUが最終盤に賛成に回ったことは大きな驚きをもって受け止められました。
ただ、すべての国の賛同は得られておらず、交渉は続いています。
本来の予定では会期は18日まででしたが、18日午後にあった全体会合で、議長のシュクリ・エジプト外相は「私たちは再びギアを入れ替える必要がある」「この会議を明日、終了させることを約束する」と述べ、会期の延長を発表しました。
この全体会合の場ではガーナから来た10歳の女の子、ナケーヤ・ドラマーニ・サムさんが大きな注目を集めました。
ガーナの求めによって発言することになった彼女は「ここにいる皆さんがもし私のような若者だったら、地球を守るために必要なことにすでに同意していないですか?」と会場に問いかけます。
「私の国のいくつかのコミュニティーはすでに重い代償を支払っています。これは単純な質問です。あなたはいつ私たちに返済できますか? 支払期限を過ぎてしまっているのです」とも語り、温室効果ガスを排出して発展してきた先進国に途上国を救済するための資金提供を求めると、会場はスタンディングオベーションをする人たちが相次ぎました。
これからの大詰め交渉で「主役」となるのは、決定権のある各国閣僚級です。
15~16日にあった閣僚級演説で目を引いたのは日本の西村明宏環境相(62)の4人後に登壇したスウェーデンのロミーナ・ポルモタリ環境・気候問題担当相(27)です。
ポルモタリ氏は先月、同国史上最年少で大臣に就任したばかりで、COP27が本格的な「外交デビュー」となります。
演説では壇上から眼光鋭く場内を見渡しつつ、こう呼び掛けました。「若い気候・環境大臣として、生きている間に経験したい未来は明らか。最近パキスタンで起こったような洪水災害のない社会だ」
なかでも温室効果ガスを大量に出す石炭火力発電の段階的削減と、化石燃料に対する補助金を段階的に廃止するとのCOP26での合意について、進み具合をきちんと評価するよう求めました。約束だけして「はい終わり」では許さないよという覚悟です。
温室効果ガスの排出が増えるほど地球の気温は上昇し、干ばつや海面上昇に伴う高潮など災害のリスクは高まるとわかっています。
温室効果ガスの排出増が止まらなければ、若い人ほど気候変動の影響は大きくなる。気候問題担当に20代を抜擢(ばってき)するスウェーデン政権に、この問題に対する高い野心を感じました。
それにしても20代で大臣とは若い。日本の戦後最年少大臣は34歳。
その若さでなぜ大臣になれたのですか? 演説を終えたポルモタリ氏を直撃すると、こんな答えが返ってきました。
「私は10年近く政治の場にいました。経験と努力があればほとんど何でもできるのです」
演説では原発も温暖化対策に有効とも主張していました。風力発電など再エネ大国でもある同国の動向が気になります。(合田禄、関根慎一)
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環境問題に対して、自分ひとりが何かやっても意味がない――。そう思っていたこともあったというモデルの長谷川ミラさん(25)。サステイナブルファッションのブランドをプロデュースしたり、SNSやメディアを通じてさまざまな社会課題について発信したりしています。気候変動を意識するようになったきっかけや、社会課題へのアクションの起こし方について聞きました。
■12日目(11月17日)カギ握る米中特使共演 COP27、自動車では脱炭素連合
国連気候変動会議(COP27)は最終盤にさしかかってきました。
17日、温室効果ガスであるメタンの削減について、各国の大臣たちが話し合うイベントがありました。世界でメタンの排出量を2030年までに20年比で少なくとも30%減らす取り組みには日本など約150カ国が参加しています。
米国が熱心に取り組んでおり、気候変動を担当するジョン・ケリー大統領特使も参加していました。
イベントの最中、ケリー氏が突然、「中国の気候変動特使を紹介したい」と切り出すと、解振華・気候変動特使が壇上に現れました。ケリー氏は「共に取り組んできた私の友達だ」と紹介しました。
メタン削減の国際的取り組みに中国は加わっていません。
解氏は「なぜ中国が(イベントに)参加するのかと、すこし不思議に思うかもしれないですが、私のとても仲の良い友達、ケリー氏がこのイベントのことを教えてくれて、中国のメタン対策を共有しないかと言ってくれた」と説明しました。
解氏はメタン削減について「違った形で協力を模索することができる」と語り、米国などの取り組みには参加するとは言いませんでした。
米中の気候変動対策をめぐっては、昨年のCOP26で両国がともに30年までの削減対策の加速を約束する共同宣言を発表し、交渉に勢いを与えました。
しかし、ペロシ米下院議長が8月に台湾を訪問したことで一気に関係が冷え込んでいました。ようやくバイデン米大統領と中国の習近平(シーチンピン)国家主席が今月14日に初めて対面で会談。ホワイトハウスによると、両氏は気候変動などの問題について、主要な高官に権限を与えて、コミュニケーションを維持して、建設的な努力を深めることに合意したということです。
米メディアによると、米中会談後、ケリー氏と解氏は面会しているといいます。この日のサプライズ招待はCOP27の開催中、両氏が初めて公の場で協力関係を強調したもの。歩み寄りをアピールしたものと言えそうです。
中国と米国は世界の二酸化炭素(CO2)の国別排出量が1位と2位で、2カ国だけで世界の4割を占めます。交渉の場では、違う立場で対立している課題もありますが、米中の歩み寄りが合意へのカギを握りそうです。
この日は、自動車部門でも新たな動きがありました。40年までに世界で新車販売をすべて、電気自動車(EV)など走行中にCO2を出さない「ゼロエミッション車」にする連合が発足しました。
昨年のCOP26で英国政府が主導した「ゼロエミッション車」宣言の「後継」となる取り組みで、「Accelerating to Zero(A2Z)」連合と名付けられました。A2Z連合は、主要市場で35年までに、世界全体で40年までにすべての新車販売をゼロエミッション車にすることを約束します。
ロイター通信によると、今回は新たにスペイン政府やフランス政府などが参加し、計214の国や地域、大手自動車メーカーなどの企業が署名しました。1年前の130から大幅に増え、広がりを見せています。
ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンス(BNEF)がこの日発表した報告書では、22年の世界のEVの年間販売台数は21年比60%増の約1060万台に、20年からは3倍以上に増える見通しです。世界で22年上半期に販売された新車の13・2%がEVで、20年の4・3%、21年の8・7%から順調に増加しています。
35年までにエンジン車の全廃目標を掲げる自動車メーカーは市場の23%を占め、1年前の19%から増えています。
一方、日本の政府や自動車メーカーは、A2Z連合への参加を見送っています。日本政府は、国内の新車販売を35年までにハイブリッド車(HV)を含む「電動車」100%にする目標を掲げています。HVは効率がよいですが、ガソリンを使うのでゼロエミッション車ではありません。
米国政府やドイツ政府もA2Z連合には参加していませんが、米ゼネラル・モーターズ(GM)やフォード、独メルセデス・ベンツなどは署名しています。
世界の温室効果ガス排出量の約2割は運輸部門が占めています。日本で、自動車の脱炭素化をめぐる動きの遅れが心配です。(合田禄、桜井林太郎)
■11日目(11月16日)日本パビリオンには人だかり、交渉での貢献は…
国連の気候変動会議(COP27)の会場では、参加各国や国際機関、NGOなどがパビリオンを設置しています。
気候変動に関するセミナーや展示をして、脱炭素に向けた取り組みをアピールしています。16日午後、日本のパビリオンで、ことのほか大きな人だかりができていました。
日本政府が立ち上げた、温室効果ガスの削減量の国際的な取引に関する「6条実施パートナーシップ」というイニシアチブの立ち上げイベントです。
地球温暖化対策の国際ルール「パリ協定」には、先進国の支援で途上国が削減した排出量(クレジット)を、先進国の削減分にしたり、取引したりできる仕組みがあります。
うまく機能すれば、効率的に排出削減でき、先進国も途上国もお互いに「ウィンウィン」の関係になりえます。取引の活性化のため人材育成などを図っていこうと、世界の60超の国と機関が参加を表明しました。
西村明宏環境相は「幅広く情報共有し、国際的に連携を行うことが重要」と話し、満足そうな笑みを浮かべていました。確かに、日本主導の取り組みでこれほど仲間を集めることができたのは珍しいように思います。
でも、COP27の成功に向け、「本筋」である交渉への貢献には、物足りなさも感じました。
この日は当初、米国のケリー大統領特使(気候変動問題担当)や、中国の解振華・気候変動特使、欧州連合(EU)のティマーマンス上級副委員長ら各国・地域の交渉トップとの二国間会談が予定されていましたが、ケリー氏とティマーマンス氏との会談は再調整となりました。中国との会談は行われましたが、相手は解氏の部下に変更されました。
これらの交渉団トップは何年もCOPに携わっているベテランばかりです。1年程度で閣僚が替わる日本は、政治レベルの交渉で存在感を発揮できていません。
むかしは日本も、もう少しは存在感があったように思えたのですが……。
(桜井林太郎)
■10日目(11月15日)「救済基金」を求める団結 偽情報との闘いも
今年のCOPで焦点の一つになっているのは、温暖化の影響によって途上国ですでに起きている「損失と被害」の救済策です。
COP27の成否を決める、「損失と被害」はどう決着するのでしょうか。
14日夜には「損失と被害」について、各国の現段階での主張を整理した草案が公表されました。
途上国は、損失と被害の救済のために特化した基金を作り、これまで温室効果ガスを排出して発展してきた先進国が中心となってお金を出す新たな仕組みを求めています。
一方、損失と被害が法的責任に結びつくと、賠償請求に発展し、金額が膨大になる可能性もあります。一部を除く先進国は強く反対しています。
先進国は、すでにさまざまな支援の形が存在しており、損失と被害の支援に特化した新たな基金は不要との立場です。たとえば、G7議長国ドイツなどが主導して、低所得国への温暖化対策や被害救済のために資金を提供する仕組み「グローバル・シールド」が発足しています。
日本も途上国が求める新たな基金の設立に慎重な立場をとっています。
今回の草案には、新たな基金を立ち上げて、資金を提供する仕組みを2024年までに稼働させるという案と、様々な形態の基金をもとに、どうすれば最も機能するかを23~24年にかけて検討して決めるという選択肢が記されていました。
ただ、交渉状況に詳しい環境NGOの国際ネットワーク「気候行動ネットワーク(CAN)・カナダ」のエディ・ペレス国際気候外交ディレクターは、「議論の過程が公表されたのに過ぎません。現段階で、基金が新たにできると言っているのではないのです。あくまで最初の草稿です」と強調します。
その上で、「私たちは新たな基金を手にして、この会場を去ることになるでしょう」と予想します。
ペレス氏は「基金をめぐり、途上国が団結しているからです。市民団体や先住民族の組織とも団結しています。(基金設置を求める)圧力はとても高いのです」と答えました。
交渉は最終盤までもつれ込みそうです。
一方、15日は気がかりな調査結果も発表されました。
国際NGOなど50以上の団体でつくる「偽情報に立ち向かう気候行動」は、気候変動についての間違った認識がどれぐらい広がっているかを調べた結果を公表しました。
調査では、今年10月にオーストラリアとブラジル、インド、英国、米国、ドイツの6カ国それぞれで1千~2400人を対象に「科学的に誤りだと分かっている事柄」を正しいと思うか聞きました。
「温暖化は自然現象で、人為的な活動の直接的な影響ではない」ことを「真実だ」と答えた人は、オーストラリアやドイツでは33%。一方、英国では20%で一番低くなりました。国連気候変動に関する政府間パネルは昨年の報告書で、人間活動のせいで温暖化が起きていることは「疑う余地がない」と断言しています。
一方、石炭火力の代替エネルギーとして使われている天然ガスについて「気候変動にやさしい資源だ」と思っている人はインドでは57%、ブラジルでは40%、米国では39%に上りました。
天然ガスは発電などで燃やす際に、石炭よりも少ないですが、二酸化炭素を出すこと、また、採掘場所やパイプラインなどから、二酸化炭素よりも強力な温室効果ガス・メタンが大量に漏れていることが知られています。
総合的にみて、間違った情報を一つでも信じている人の割合はインドで最も高く、英国で最も低い傾向にあったそうです。
事務局のアレックス・マレーさんは「気候に関する誤った情報は端に追いやられていたはずなのに、再び(気候変動を)否定するようなナラティブ(物語)が戻ってきている」と指摘します。
その上で、「(ソーシャルメディアなどの)プラットフォームはその増幅を止めることに失敗したということです。それが本当の問題だと思う」と話しています。(合田禄)
■9日目(11月14日)「アフリカの角」で3610万人が危機 救済急務のCOP27
COPも後半戦に突入です。先鋭化する各国の利害対立をハイレベルで調整する閣僚級による会合がこの日から非公式で始まりました。
日本からは西村明宏環境相が参加、温暖化の原因となる温室効果ガスの排出削減や、途上国への支援のあり方について、議論に加わりました。自らの強みを「調整力」と自認する西村氏の手腕に注目したいと思います。
非公式会合を前に、西村氏は「国際情勢を問わずしっかり解決していかなければならない」と記者団に意気込みを語りました。焦点の温室効果ガス削減については「主要排出国にしっかり排出削減をやって頂くことが大変重要」と述べ、排出を増やしている中国やインドとは二国間会談も行って排出削減に対する責任を果たすよう、求めていく考えです。
西村氏の会見では、COP27に不参加だった岸田文雄首相について改めて問う質問も出ました。他紙のベテラン特派員は「岸田首相が首脳級会合に来なかった。来年の主要7カ国(G7)議長国として適切な判断だったと思うか、説明してほしい」と迫りました。
西村氏は「外交日程含めて様々な要件の中で出席がかなわなかった」と従来の見解を繰り返しただけでした。
COPの会場では各国政府が行う本体の交渉事のほか、国際機関やNGOなどが行うサイドイベントも数多く行われています。今日はそのうち、「アフリカの角」と呼ばれるアフリカ大陸北東部の干ばつ被害を訴える国連機関のイベントをのぞいてみました。
2020年の秋から、年2回ある雨期に十分な雨が降らない干ばつが続き、特にエチオピアやケニア、ソマリアで降雨量が不足。今年10月には少なくとも3610万人が食糧危機など深刻な干ばつの影響を受けているということです。
「アフリカの角」から出る温室効果ガスは世界の0・59%に過ぎないといいます。けれど、被る被害は深刻です。このCOPで焦点となっている温暖化により生じる「損失と被害」の典型のような事例です。救済の仕組み作りを急ぐべきだと改めて思いました。(関根慎一)
■8日目(11月13日)交渉の舞台は「覇権争いの最前線」
約2週間の長丁場となるCOP27も13日は中休み。参加者たちが開催地のエジプト・シャルムエルシェイクを堪能する貴重な1日です。
この街は紅海に面した美しいリゾートとして有名ですが、実は三つの国が覇権を争う最前線という隠れた歴史があります。
ここの海の美しさに着目し、リゾート開発を始めたのは、かつての敵国イスラエルでした。1967年の第3次中東戦争でエジプトから、この街があるシナイ半島全域を奪い取り、占領していた当時のことです。
米国仲介の和平で82年にエジプトに返還されてからも開発は続けられ、ピラミッドの歴史的遺産やカイロの混沌(こんとん)など、従来のエジプトらしさとは全く異なる観光地に成長しました。
今はイスラエルへ直行便が飛び、陸路でエルサレムへの日帰りツアーもあります。余談ですが、ここはロシア人に特に人気があり、本国のウクライナ侵攻のさなかでも、街はロシア語であふれています。
ビーチの目と鼻の先に浮かぶのはチラン島です。数年前、エジプトがサウジアラビアに「返還」して話題になりました。
島は両国を隔てる海峡の真ん中にあり、サウジも領有を主張していましたが、第2次大戦後はずっと、アラブ圏の軍事大国だったエジプトの管轄下に置かれました。
しかし、2011年の「アラブの春」の革命や2年後の政変で、エジプトは混乱し、国力が低下。シーシ政権は17年、世論の反対を押し切って、島をサウジに譲ることを決めました。
外貨不足に悩むエジプトが、地域の盟主となったサウジのオイルマネーに頼らざるを得なかった事情があるとみられています。
そういう歴史の先に迎えたシャルムエルシェイクでのCOP。
サウジは、国政の実権を担うムハンマド皇太子が開幕に合わせて、シャルムエルシェイク入りしながら、首脳級会合への参加はキャンセル。その代わり、会場外に造ったサウジの専用施設にエジプトを含む中東各国の首脳を一堂に集めて「中東グリーン・イニシアチブ」と称して総額25億ドル(約3500億円)の環境投資計画をぶち上げ、存在感は絶大です。
イスラエルは、ヘルツォグ大統領が首脳級会合で演説。「中東の環境危機」「太陽光にあふれた中東」「リニューアブル(再生可能な)中東」など「中東」という言葉を繰り返しました。
占領地パレスチナの問題を抱え、中東ではずっと孤立してきましたが、近年、アラブ首長国連邦(UAE)などアラブ圏の4カ国と国交正常化に成功。大統領の「中東」連呼は、この地域の主要国として認めさせようという宣言に見えました。
そして開催国エジプト。反体制派によるCOP期間中を狙った抗議デモ呼びかけや、高すぎるホテル代や会場内の食事代への苦情などへの対応、そして何よりも大事なCOP議長としての仕切り……。いまのところ余裕ある運営ぶりには見えません。
それでも私はエジプトの必死さや熱意を感じます。この10年余りの間、傷ついた国際的な地位を取り戻すため、何としてもやり遂げようという意思です。
様々な国々の思惑も乗せて、COPは後半戦に入ります。(武石英史郎)
地球異変
朝日新聞は2007年から長期企画記事「地球異変」で、地球温暖化問題の現場をルポと写真で追いかけ続けてきました。アーカイブで振り返ります。 (※記事は、紙面掲載日時点の内容です)
■7日目(11月12日)「はかばかしくない」…COP27、慈雨なきまま後半戦へ
COP27が開かれている会…