栃木市の飯沼銘醸・飯沼徹典さん 「量より質」の経営貫く

根岸敦生
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 10月1日は「酒造元旦」と言われる。旧酒造税法でこの日から翌年の9月30日までが1酒造年度と定められたのが由来。蔵元は「元旦」から約1カ月を経て、新酒の仕込みで忙しい。

 栃木市の飯沼銘醸は、旧例幣使街道金崎宿の辺り、西方町元にある。男体山の姿がくっきりと見える。

 蔵は1811(文化8)年創業。越後杜氏(とうじ)の多い栃木県で、新潟県長岡市(旧越路町)から出稼ぎに来ていた飯沼岩次郎がこの地で独立して蔵を開いた。当主の飯沼徹典さん(57)は9代目になる。

 酒の銘柄は三つ。普通酒の「冨貴(ふうき)」、地元農家が栽培する酒米を先代の邦利さんが生かした淡麗辛口の特定名称酒「杉並木」、当代が始めた「姿」だ。

 「昔の蔵元は営業と経営が主な仕事で、酒造りは新潟から来る杜氏に任せていた。でも杜氏が高齢化して『地元の人間が造れるようにならないとダメだ』と言われた」。これを機に自ら酒造りを学んだ。9代目は蔵元杜氏になった。

 「姿」は当代が「自分の飲みたい酒を造ってみたい」と始めた。名は地元にある姿見の池からつけた。18歳の美しい姿のまま不老不死となった娘が800年以上生きたという八百比丘尼伝説由来の池だ。

 「どっしりして、香りが立ち、個性がある味」を楽しむ「姿」は四季折々に22種も造る。「酒は元々、搾りたてがおいしい。出来立てをそのまま飲んで欲しい」という願いを込めている。

 1種約1600リットル仕込みのタンクで少量ずつ仕込む。米は全国の産地から。種類も山田錦、雄町、五百万石、吟風など様々。酵母を変え、無濾過(ろか)や生酒、火入れなど仕上げ方も変える。「うしろ姿」「晴れ姿」「ゆかた姿」など名前に季節感がある。生産量が少なく売り切れ御免(ごめん)だ。

 蔵ではかつて2千石(約36万リットル)生産していたという。今は約600石(約11万リットル)。大手の酒造会社とは違う「量より質」の経営に切り替えてきた。

 約70年前に生産が途絶えた地元の米「愛国3号」の復活計画にも参画している。「どんな味の酒が造れるのか今から楽しみ」

 この秋、仕込んだ「初姿」は今月中旬には搾る予定。店先には門松ならぬ新酒の出来上がりを告げる「杉玉」が上がる。根岸敦生

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