「なぜか遅刻してしまう」人の対処法 脱線する自分を止める合言葉を

中島美鈴
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 ADHDの大人の困りごとに対処するには、つまずくプロセスを4段階に区切って見ていくことが役立ちます。①「スタートできない」、②「無計画に始める」、③「時計を見てない」、④「おおいに脱線」のどのプロセスでつまずいているかを分析することで、ピンポイントで効率的に対処ができるのです。

 前回は、「部屋がなかなか片付かない人」を例に考えました。今回は、「なぜか友人との待ち合わせに遅刻してしまう人」の例を取り上げます。

 みなさんは、友人との待ち合わせの時間はどのぐらい守りますか?

 プライベートな約束だから数分の遅れぐらいは許容範囲という方もいらっしゃるかもしれませんが、毎回30分単位で遅刻するとなると友情を失いかねません。

 ADHDの方の中には、約束になぜか遅刻してしまう方が多くいらっしゃいます。

 といいながら、肝心なとき(まだつきあいの浅い人との待ち合わせや仕事の集合時間)だけは、時間に間に合ったりしますから、待ち合わせをした相手からすれば「大事にされていない」と思われても仕方ありません。

 でもよくよくADHDの方をみていると、例外的な「肝心なとき」にも決して待ち合わせ時間ちょうどに到着しているわけではなく、遅れてはいけないというプレッシャーから1時間以上も早く現地についている場合が多く見られます。そしてこうおっしゃいます。

「こういうイレギュラーな用事だと一回きりだからがんばれるんですけど、これが毎日になると遅刻なんですよね」

 そんなセリフだけを聞くと、

「なんだ、やっぱりやる気の問題じゃないか。仕事とか肝心なときと同じように、プライベートの約束でもがんばって遅刻せずにきてよ」

と言いたくなりますよね。

 私も言いたくなります。待たされるだけでなく、やはり相手から尊重されていないのではないかという気持ちになるのです。

「やる気のムラ」は脳の特徴

 でもこのやる気のムラこそが、ADHDの方の脳の報酬系の特徴なのです。

 人がこれから物事にとりかかるときのやる気に関係するのが、脳の報酬系といわれる部分です。ここに神経伝達物質が流れることで活性化して、やる気が起こると言われています。

 ADHDの脳の研究では、報酬系を活性化するには、高額な金銭的報酬が用意されていないといけないという知見もあります。反対にいえば、それぐらい強烈な刺激がなければやる気を起こしにくい脳だということです。

 また、「すぐにご褒美はもらえないけど、ちょっと待っていればたくさんもらえる」という、報酬が遅延する状況を嫌がることもわかっています。

 人との待ち合わせの場面でいうと、本当なら「肝心な時」と「平常時」のどちらのケースにおいても、遅刻せずに待ち合わせの時間に行く方が、「相手との人間関係がよくなる」という報酬がやってくるはずです。

 ところが、親しい日常的な間柄の約束場面では、遅刻した直後に相手から罵倒されるとか、ものすごい罰金を支払う羽目になるなどの状況でない限りは、がんばって遅刻しないように気を張ったところで、そんなに褒められもしないし、ただちにまずいことにもならない結果となるわけです。

 一方で、肝心な場面では、人間関係がまだ浅いので人間関係が破綻(はたん)しやすいとか、遅刻したら下手するとクビになるみたいな悪い結果がすぐに起こりうるからこそ、やる気が出るのかもしれません。

 では、この原理を応用して、もしもあなたにADHD傾向のある友人がいたとして、待ち合わせに毎回遅刻されて、イライラする場合には、遅刻した友人に対して即座に攻め立てて、相手が懲りるほど怒ればいいのでしょうか?

 答えはNoです。

 遅刻した結果、ひどいことが起こるのならば、おそらくADHDのその友人はもうあなたのことを避けたり遊ぶ頻度を少なくしたりするでしょう。

 あなたがどんなに友人の遅刻を即座に非難したところで「ああ、あの人は時間に厳しい人だから、つきあいづらいな」と思われてしまうだけで、終わりそうです。

つまずく段階ごとに対策を

 ではどうすればいいのでしょうか?

 今ご紹介した例はこうまとめられます。

 <遅刻した→嫌な結果が待ち受けている→その関係から逃げる>

 そうではなくて、次のような循環にしていくといいでしょう。

 <時間に間に合う→いい結果が待ち受けている→その次からも時間に間に合う>

 しかし、ここで難題が発生します。

 そもそも「時間に間に合ってない」ADHDの人が、「時間に間に合う」日はあるのか、という点です。時間に間に合う経験をしなければ、話がはじまりません。

 そこで、ここからはADHDの人が「時間に間に合う」という行動を一度でもできるための方法をご紹介します。

 話を「ADHDの人の遅刻」について、①「スタートできない」、②「無計画に始める」、③「時計を見てない」、④「おおいに脱線」の段階に区切って分析することに戻しましょう。

 つまずいている段階ごとに対策を紹介します。現状→対策の順に書きます。

①「スタートできない」:

 なんとなく、本気を出せばまだ起きなくても間に合うような気がしてなかなか朝起きようとしない(時間感覚の弱さと 眠気から生じる「ポジティブすぎる予測」という名の現実逃避)

 →余裕のある朝はあきらめて、本当にぎりぎり起床しないとやばい時間を見極め、それを起床時間とする。

 →もしくは、起きた時のご褒美を用意しておく(例:朝に食べたいパンを買っておくなど)

②「無計画に始める」:

 とにかく急がないと!と、着替えをしながらご飯を食べる中で牛乳をこぼしたり、洗面所で洗顔するついでに歯磨きまですませたらいいのに途中で別の部屋にいったりとあちこちドタバタ……(効率が悪い)

 →朝起きてから家を出るまでにすることはいつもそんなに変わらないはずです。どこで何をどの順番でやっていくか、冷静に計画を立てると無駄を見直せます。

③「時計を見てない」:

 床にこぼした牛乳をぞうきんで拭いていたら、周辺も汚れていることに気づいてついつい床掃除に没頭してしまう(朝起きてから家を出るまでの作業中に 時計を見るのを忘れて 細部に没頭する)

 →時間感覚に頼らず、毎朝同じ時間に放送されるテレビやラジオ番組などを手がかりにして作業します。たとえば、「今日の占いコーナーまでには朝ごはんを終えておけば間に合う」というように、ある時点と自分の行動を結びつけておけば、連動して動けます。

 →テレビやラジオがうるさいと感じる方は、15分間隔でアラームをかけておくことをお勧めします。

④「おおいに脱線」:

 朝起きてから家を出るまでにやること以外の誘惑につかまってしまい、朝の準備から脱線する(たとえばテレビで「あの有名な俳優が結婚!」などと報道されていて そのニュースに飛びついてしまい さらに詳しい情報を得たくてスマホで検索を始めてしまう)

 →脱線を防ぐのに最も効果的なのは、「刺激を減らす」ことです。テレビをつけていたから、脱線してしまったのですから、朝の時間はテレビは消しておくのが最も簡単でしょう。

 →また、「今したくなっていることは、朝の準備より優先順位は低い。あとでもできる」などの、自分を止める言葉を日頃から用意しておくのも効果的です。もちろんそれを貼り紙として視覚化して目に付く場所に貼っておくのもいいでしょう。

 いかがでしょうか? 以上のプロセスごとの対策がうまくカチッとハマれば、遅刻せずに時間通りにいけるはずです。

 そうなったときには、ぜひ、周囲の皆さんは「遅刻しないのが当たり前なんですよ」という態度ではなくて、「いいね!うれしいよ」「今日は間に合ったね!」なんていい反応を即座にしてあげてください。

 きっと良い関係が続きます!

    ◇

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中島美鈴
中島美鈴(なかしま・みすず)臨床心理士
1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。