「核兵器の放射線被害は軽視された」 原爆を調査した米医師孫の思い

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 ロシアのウクライナ侵攻で核兵器使用の脅威が高まっている。壊滅的な被害をもたらす兵器も肯定する考え方の源流には、広島・長崎における放射線の影響を隠蔽(いんぺい)した米軍の活動があると米ウィリアムズ大のジェームズ・L・ノーラン Jr.教授は指摘する。核兵器を正当化するような言説にどうあらがえばいいのか。

 ――著書「ATOMIC DOCTORS」の翻訳「原爆投下、米国人医師は何を見たか」(藤沢町子訳、原書房)が7月に出ました。

 「祖父は米国の原爆開発『マンハッタン計画』に参加し、1945年9~10月、広島・長崎に調査に入った医師でした。83年に亡くなり、資料は父が引き継ぎました。父の死後、10年ほど前に母が資料の入った箱を見つけました。大変驚いたことに、祖父の日本滞在中の写真や、計画の科学者を率いたロバート・オッペンハイマーとのやりとりが記された文書などが入っていたのです。これを本にしようと思ったのは、祖父が関わったという個人的な側面のほかに、極めて重要な歴史のことがらだからです」

 ――原爆では多くの人が亡くなり放射線の被害を受けました。

 「この本は祖父の個人的な物語であるとともに、原爆を開発して使用し、いまも実験を続けている歴史についての物語でもあります。祖父は原爆投下後の広島・長崎を訪れた最初の米国人グループの一員として、破壊力や放射線の人体への影響を調べました。被爆者らが放射線の影響を激しく受けていることを確認したのです。軍からは放射線の影響を軽視した言説をつくるようにとの圧力を受けていました。計画の軍トップだったレスリー・グローブスに対して、医師らは残留放射線があると報告していました。しかし、グローブスは45年11月の連邦議会で、報告に反して放射線の影響を隠蔽したのです。祖父らは広島・長崎の人々が放射線の影響で亡くなっているのを目撃し、自分たちにも放射線による症状が起きていました。なのにグローブスは、残留放射線は全くなく急性放射線障害は最小限だと議会で発言しました」

 ――医師らは残留放射線について報告したのに軍が隠蔽して、広島・長崎は安全だと宣言したのですね。

 「その通りです。これは核時代の黎明(れいめい)期から続いているパターンなのです。たとえば、広島・長崎への原爆投下前、米ニューメキシコ州のトリニティ・サイトで世界初の核実験が行われたときにも、医師らは放射性降下物の影響を心配し、周辺住民を避難させるよう進言していました。グローブスは避難によって原爆開発の秘密が漏れることのほうを心配していました。計画の医師らのトップだったスタッフォード・ウォレンはグローブスに、核爆発後に兵士らが立ち入ると激しく被曝(ひばく)すると文書で警告したのに無視されました。戦後、太平洋のマーシャル諸島で核実験を行う際にも医師らは警告しましたが、軍は軽視するか、無視したのです。これは繰り返されてきたことなのです」

 ――グローブスは医師らの権威を利用した調査をしつつ、原爆使用を正当化するための広報活動をしたということですか。

 「そう言ってもいいでしょう。グローブスは放射線の影響を軽視することに重要な役割を果たしました。そもそも45年9月に医師たちを日本に派遣する際に、『君たちには放射線がないことを証明してほしい』と言っています。日本に行く前にテニアン島でのミーティングで、調査団の軍の副責任者だったトーマス・ファレルも『放射線がないことを証明するために我々は日本に行くのだ』と語りました。軍は広島・長崎における残留放射線の被害はないことにしたかったのです。議会で証言したグローブスは放射線の影響を軽視してこう言いました。『ごくわずかな人々が放射線によって死んでいます。医師たちは私にとても安らかな死に方だと言いました』。医師たちが言ってもいないことを彼は証言したのです。まさに、医師たちを利用して放射線の重大な影響を軽視することを補強したわけです」

 1962年生まれ。米ウィリアムズ大教授(社会学)で研究分野は法と社会など。原爆開発の「マンハッタン計画」に参加したジェームズ・F・ノーラン医師の孫。

 ――現在まで続く広島・長崎の放射線被害の過小評価につながっているように見えます。広島では放射性降下物を含む「黒い雨」にあった人たちが、ようやく被爆者と認められました。長崎では同様の「被爆体験者」はなお対象外です。放射線の長期的影響や、呼吸や飲食によって放射性物質を体内に取り込む内部被曝の危険性が考慮されていないという人もいます。

 「著書の第6章で『放射線と…

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