カオスな日常に感じた希望 ちょっと変わった高齢者住宅の映画上映へ

鈴木春香
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 【兵庫】神戸市長田区の、ちょっと変わったサービス付き高齢者向け住宅「はっぴーの家ろっけん」。そこに集う様々な背景を持った人たちの、ごちゃまぜになった日常を記録した映画「30(さんまる)」が、19日から全国4カ所で自主上映される。人とのつながりや命、日本社会の近未来を考える機会にしてほしいという。

 映画をつくったのは、京都市在住の書籍編集者で映像作品も手がける鈴木七沖(なおき)さん(58)。人々のコミュニケーションなどをテーマにした作品をつくってきた。はっぴーの家を知ったのは2020年1月。SNSを通じてだった。

 17年にできたはっぴーの家は、6階建て施設に35人ほどの高齢者が入居する。運営する首藤義敬さん(37)が口にする施設のキャッチフレーズは「遠くのシンセキより近くのタニン」や「違和感も三つ以上重なるとどうでもよくなる」。

 スタッフは若手が多く、外国籍の人もいれば、不登校や虐待を経験した人もいる。広々とした1階のリビングでは、近所の子どもたちが駆け回ったり、子育て中の主婦らがおしゃべりしたり。時には入居者の希望をかなえるために全員で外出を計画し、施設内のイベントではスタッフや入居者の知り合いも巻き込んで老若男女が踊り回る。

 「日常の登場人物を増やす」をコンセプトに、多様な人々の参加によって「化学反応」が起きるコミュニティーは、行政関係者や研究者の注目も集めてきた。

 鈴木さんは、首藤さんの考えに関心を寄せ、20年5月から2年半、施設に通って撮影を続けた。「こんなに違う人ばかりでうまくいくのかと思ったけれど。このカオスの中に希望がある気がした」という。

 焦点を当てたのは、タイトルの由来でもある30代の6人の中心スタッフ。同質化を強いる社会への違和感や、未来に明るい展望を持てない不安といった、様々な葛藤を感じながらはっぴーの家にたどり着いた彼らの姿は、今の日本社会が抱える問題を浮かび上がらせている気がした。

 映画のもう一つのテーマは命だ。長く入居し、家族ぐるみで施設と深い付き合いがあった男性の、最期をめぐる日々を盛り込んだ。

 男性はガンで余命宣告を受けるも、大好きなお酒を飲み、スタッフが企画した「キャバレーナイト」を楽しむ。死の間際には男性の部屋に家族やスタッフらが集まり葬儀の段取りを語り合った。スタッフの子どももいる部屋で話は和やかに進み、場所もはっぴーの家で執り行った。

 「生と死の境界はあいまいで、死は怖いものではない。そして死をどう迎えるかは結局、日常をどう生きるかでしかはかれない」。死が遠ざけられた現代社会で、鈴木さんがどうしても伝えたかったことだった。

 20年ほど前に妻を亡くし、息子と2人で暮らしてきた鈴木さんにとって、大家族のようなはっぴーの家は憧れでもあったという。「人口が減る中、人とのつながりはより重要になり、誰かの助けがもっと必要な時代になっていく。映画をみた人々がつながり語り合う機会になればうれしい」

 映画は約2時間。初回の上映会は19日に神戸市中央区の「ステージ・フェリシモホール」。25日に東京、12月10日に名古屋、同18日に横浜と続く。チケットは3500円。オンラインで販売している。来年春からは映像を貸し出すなどして、各地で自主上映会もするという。(鈴木春香)

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