還暦 今も「受ける青春」を戦っている 将棋棋士九段・中村修

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北野新太

将棋の中村修九段は今月7日、60歳の誕生日を迎えた。20代前半で王将を連覇して棋界の頂点に立った棋士は、還暦を迎えた今も激しい勝負の世界を戦い続けている。

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 真夜中まで戦い続ける順位戦の朝も、中村修には欠かせない日課がある。

 午前7時から30分、愛犬のトイプードル「バニラ」(オス、11歳)と近所を散歩する。

 「バニラと一緒に歩きながら、あー今日は順位戦だなあ、とワクワクした気持ちになるんです。(持ち時間)6時間の将棋にはじっくりとした時間が流れます。今日はゆっくりと楽しんで考えよう、と思えるんですね。負けたら大変だな、とは思わないようにしてます。楽しみを感じながら対局場に向かわないとしんどいですからね……」

 自宅に戻り、朝食を終え、身支度をして9時前に将棋会館へと向かう。通勤客と共に電車に揺られて千駄ケ谷へ。10代から通い慣れた場所に入り、そして対局開始の10時を迎える。

 順位戦を戦い始めて42年目になる中村は今月7日、60歳の誕生日を迎えた。会社員ならば定年退職する人も多い。スポーツ選手でもプロフェッショナルのプレーヤーとして在り続ける人は極めてまれだと言えるが、中村はまだ現役として、それも上位の棋士として勝負の世界を戦い続けている。

 「還暦って、昔ならおじいちゃんにチャンチャンコを着せてあげるお祝い事みたいなイメージがありましたけど、まだ自分はちょっと違うと思ってます。人として、だけでなく、棋士としての健康寿命ってあるんですよ。自分は心も体もまだまだ長く維持していたいと思っています」

 頂点に立つ名人への挑戦を目指して戦う順位戦には五つの階級がある。A級(10人)、B級1組(13人)、B級2組(今期は26人)、C級1組(同33人)、C級2組(同56人)。60歳を超えてB級2組以上で戦っている棋士は中村と谷川浩司十七世名人(60)の2人しかいない。

 「羽生(善治九段)さんたちが20代の頃、30代の自分は大変だなと思って戦っていた。でも、彼らも40代、50代と年齢を重ねてくると昔のような差を感じることはなくなりました。もちろん実力差はあるんですけど、勝てないという気持ちはなくなった。もう恐怖心はないです」

中原誠から王将を奪って頂点を極め、そして羽生世代が一気に時代を席巻していった。パチンコに逃げたこともある。でも「受ける青春」は揺るがなかった。「今の自分はあの言葉に助けられているのかもしれません」。そして今日の順位戦、中村は1545局も戦ってきて、一度も指したことのない初手を指したーー。

 まだ自分は戦えるのだ、と強く思えるようになったことには明確な理由がある。

 「コンピューターが出てきた…

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