みぎわ短歌会40年 創刊者の詩集を再出版

吉沢龍彦
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 SNSに親しむ若者たちの間で最近、短歌が注目されているという。山梨県内には16の支部に約150人が集う短歌結社「みぎわ短歌会」があり、11月には創立40年目の節目を迎えた。歌会や短歌教室など精力的な活動を続けており、創立者の上野久雄(1927~2008)の歌集も再刊された。

 創立のきっかけは、甲府市に喫茶店「ラ・セーヌ」を開いていた上野が、75年からパーソナリティーを務めたYBSラジオの番組で「短歌を作りましょう」というコーナーを設けたことに始まる。82年に番組が終了し、惜しむリスナーの願いを受けて、翌83年に短歌雑誌「みぎわ」を創刊して会を創立した。その翌年、自身の第1歌集「炎涼の星」を世に出した。

 歌人で同会の現代表、河野小百合さんは、上野について「閉鎖的だった県内の短歌風土に風穴をうがち、歌壇の最先端にあるものを積極的に取り入れようとした」と言う。中央歌壇で活躍する歌人を招いて講演会を開き、短歌結社間の交流も深めた。

 上野は16支部のすべての歌会に出席し、昼夜を問わず活動した。その指導は厳しかったという。同会の編集委員の一人、内山美智子さんは「作品の欠点を熱心に指摘し、私は叱られてばかりいた。一方で歌会が終わるとだんらんの場になり、おもしろい話をたくさんしてくれた」と話す。

 依田しず子さんは「若い時に結核を患ったせいか、体調のすぐれないことが折々あった。それでも歌会が始まると体の内側から炎が出てきて、誰より元気になる。歌の申し子だった」と振り返る。

 20代の愛好者を集めた歌会に参加していた久保とし子さんは「優しくて面倒見がよかった。会合に早めに駆けつけると、夕ご飯をごちそうしてくれた」と思い出を語った。

 同会は各支部で活動するほか、月1回の中央歌会も開く。月刊の「みぎわ」は欠かさず発行してきた。今月からの1年間を40周年記念期間と位置づけ、さまざまな事業を企画している。その第1弾として、上野の歌集再刊が実現。第1歌集「炎涼の星」と第2歌集「夕鮎」を一冊の文庫本に収めた。

 河野さんは文庫本に寄せた序文で「今も歌会の会場に入るとそこにいた先生の姿や声音、歌への情熱がありありと思い出される」とつづり、「上野久雄短歌の深い味わいを再発見してくださることを願ってやまない」と読者に語りかけた。

 「現代短歌社文庫」(現代短歌社)として刊行。税込み1320円。問い合わせは同社(075・256・8872)へ。(吉沢龍彦)

 「炎涼の星」から

 ペン先を妨げていし繊毛をあかときつまむ憎しみながら

 剃刀に負けて血を噴くおとがいをさびしと触れて去りゆきにけり

 鋭角に天つく雪の甲斐駒が月の明かりに凍結をせり

 「夕鮎」から

 春まだき朝(あした)引かるるカーテンの短き音はわが家にせり

 シクラメン選りいる妻をデパートに見て年の瀬の街にまぎるる

 いずれ又俺を探すさというように芝生に埋もれいたる刈鎌