戦時下の芸術とは ウクライナ侵攻を考える「ベトナム絵画展」

吉沢龍彦
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 【山梨】およそ半世紀前、ベトナム戦争の渦中にベトナム国内で描かれた多数の絵画が、甲府市内で保管されている。その一部の作品を公開する「ベトナム絵画展」が同市内で開催中だ。ロシアのウクライナ侵攻が長期化するなか、芸術を通じて戦争と平和を考えたいという思いが込められている。

 作品を公開したのは、光を通す天然石の工芸品「ジュエルステンド」作家の雪江なほみさん(80)。ベトナム戦争が終結した1975年に夫の進さん(故人)が貿易会社から買い取ったもので、作品に記された年から、戦争中に制作されたことが分かるという。

 なかでも、雪江さんが特に思い入れを抱くのは、木の板に描かれた漆絵「何でもできる」(71年)だ。

 赤いれんがが敷き詰められた庭には、頭上にヒョウタンがぶら下がり、赤ん坊に母乳を与えながらペンを執っている女性がいる。その手元には銃が立て掛けてある――。

 「荷を開けて初めてこの絵を見た時、父の言葉を思い出したのです」と雪江さんは振り返る。

 父は戦前から共産主義の運動家だった。雪江さんは父に反発し、学生運動には加わらなかった。もっぱら「石原裕次郎を追いかけていた」という。

 ある時、父は「ベトナムでは、あなたと同じ年ごろの娘が農具を置いて銃を手に取り、頭上の米軍機を撃っている」と語った。女性がそんなことをするだろうかと疑っていたが、父の亡き後、その言葉通りの絵にめぐり合った。

 「あの話は本当だったんだと驚いた。これは大切にしなければならないと心に決めた」と思い返す。

 今回の公開は3回目。1度目はベトナム戦争終結から30年の2005年に甲府市内で、2度目はその10年後に東京で開催した。

 所蔵品は油彩画、漆絵、絹絵、木版画水墨画、切り絵画など約130点あり、今回はそのうちの約40点を選んだ。東洋の伝統が感じられたり、西洋風のモダンな作品だったり。作家たちの個性が感じられる多彩な作品ばかりだ。

 ピンク色が鮮やかな油彩画「脱穀」は、麻袋をキャンバスにしている。画材さえも簡単には手に入らなかったことがうかがえる。

 「私も芸術家ですが、爆弾が降ってくるような環境でこんなことができるのかなと思った。戦時下でもどうにかして日常を保ち、芸術活動を続けようとしたのでしょう」と想像する。

 甲府市貢川2丁目の甲府ミュージアムハウス(055・236・9133)の特別展示室で。27日まで。21日は休館。入場無料。(吉沢龍彦)

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 ベトナム戦争 1954年に南北に分断したベトナムの統一と独立をめぐる戦争。東西冷戦を背景に60年代初頭、南ベトナムを支援する米国が軍事介入し、65年に北ベトナムを攻撃する「北爆」を開始。75年に南ベトナム政府が崩壊し、翌年南北が統一された。

 戦死者は米国が5万8千人、ベトナム側は百数十万人とも200万人以上とも言われる。米国の行動に対して世界的な反戦運動も起きた。米軍がまいた枯れ葉剤は、人間と自然に深刻な影響をもたらした。