人が倒れてる、でも日本語話せない ベトナム人の機転と警察の意気

茶井祐輝
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 散歩中、人が倒れていた。自分は日本語を話せない、どうしよう――。あるベトナム人男性が機転をきかせ、人助けに成功した。

 10月22日の昼下がり。カン・ド・チェンさん(35)は、大池寺(だいちじ)(滋賀県甲賀市)付近を散歩していた。枯山水の庭園と紅葉で知られる寺だ。

 ハノイ出身で2018年に来日した。同市の金属加工業「八代製作所」の社員だが、この日は休みだった。母国には8歳の娘と5歳の息子がいる。日本の風景を送ろうと、スマートフォンで写真を撮っていた。

 近くの池を通りかかったとき、手を上げる人間が見えた。「う~」と弱々しく声をあげ、体は泥だらけ。池のほとりの沼のようになっているところにはまり、横たわっていた。近くに自転車も倒れていた。

 助けないと。でも、日本語は話せない。119番通報をしても説明できない。

 日本人を呼びに行くことにした。ただ、日本人に会っても言葉で説明できない。そこでスマホで写真を撮った。

 あたりで日本人を探すと、2人組の男子中学生を発見。写真を見せると、そのうち1人が119番通報をしてくれた。現場に戻り、一緒に泥だらけになりながら、倒れていた人の手を握ったり話しかけたりした。

 ほどなくして、消防が到着。「ほっとしました。危ない状態に見えましたが、これで問題ないと思った」とカンさんは振り返る。

 滋賀県警甲賀署によると、倒れていたのは80歳の男性。病院に搬送されたが、命に別条はなかったという。

 甲賀署はカンさんに、ベトナム語で書いた署長感謝状を用意した。「ベトナム語の感謝状は初めてですが、カンさんがベトナムに帰国したときに、家族に見せて理解できたらいいかなと思いまして」と担当者。

 16日に甲賀署であった感謝状の贈呈式。県警本部のベトナム語通訳官が同席した。滝岡英典署長は「機転を利かせてくれて、ありがとうございました」。男子中学生には、別の日に感謝状が贈られた。

 カンさんは年末、ベトナムに帰省する。「家族にも、この話をしたいと思います」とはにかんだ。(茶井祐輝)

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    田中宝紀
    (NPO法人青少年自立援助センター)
    2022年11月21日13時20分 投稿
    【視点】

    日本語がわからない中でも機転を利かせ、倒れていた男性を助けたカンさんの勇気、すばらしいです。そしてその勇気ある行動にベトナム語の感謝状を用意して敬意を表した甲賀署の対応も、すてきだと思いました。 ただ、2018年に来日してすでに4年。