NHKの前田晃伸(てるのぶ)会長の任期が来年1月下旬に迫るなか、次期会長選びの作業が本格化している。放送法は、NHK経営委員会が会長を任命すること、12人いる経営委員のうち9人以上の多数によって議決すること、その「票」を持つ経営委員は衆参両院の同意を得て首相が任命することなどを定めるが、決まるまでの詳細は不明なことが多い。そもそも経営委員たちは、どんな理由で会長候補を名挙げするのか。そして経営委では、どんな議論を重ねているのか。過去の当事者や委員会の関係者、資料や議事録をあたってみた。
「一番最初に『NHKの会長をしないか』と声をかけてきたのは誰ですか?」
三井物産副社長、日本ユニシス社長などを経て2014年1月から3年間、会長を務めた籾井勝人氏に聞くと「それはさすがに言えないです。言えるとしたら、『天から』ですよ」と返ってきた。
政治の力が影響するのか、NHK経営委員会の中だけで決めるのか、はたまた外部の別の声も届けられるのか。そうだとしたら、どんな条件で、どんな人に白羽の矢を立てるのか。放送の担当取材を何年も続けていますが、NHK会長人事の手続きははっきりと分かりません。そこで、色んな人に連絡を取り、質問を重ねてみました。
NHKの会長選びは通例、現職の会長の任期を半年程度残した頃に、経営委の指名部会が立ち上がって議論が始まる。指名部会は今回も7月下旬に設置されており、議論が進んでいる。
13年秋、籾井氏を会長候補として推薦した経営委員は、当時JR九州会長だった石原進氏だった。
しかし、その前に誰かが籾井氏本人に意向を聞いていたと考えるほうが自然だ。NHK会長の年間報酬額は約3100万円。外部から起用された歴代の会長たちが大企業の経営者を経験していること、国会対応の必要性などを考慮して民間の企業と比較すると、決して高額とはいえない。関係者たちは「実際、能力も実績もあって引き受けてくれそうな外部の人は、それほど多くはない」と口をそろえる。
籾井氏は福岡県出身。14年3月30日付の朝日新聞朝刊には、菅義偉官房長官(当時)が福岡出身の麻生太郎副総理(同)に相談したところ、「籾井っていうのもいるなあ」と提案されたという経緯が記事化されている。
推薦の元委員、「そういうこともあったかも」
当時のことを石原氏に聞いて…