「世界は五反田から始まった」 星野博美さんが感じた戦争のリアル
「世界は五反田から始まった」
この夏、東京都品川区の五反田を題材にした、壮大なタイトルの本が出版された。
筆者はノンフィクション作家の星野博美さん(56)。生まれ育った下町が舞台の「戸越銀座でつかまえて」、自身のルーツを探る「コンニャク屋漂流記」など、身近なところから社会を見つめる作品を手がけてきた。
本は初め、かつて五反田にあった映画館の思い出などがつづられるものの、とあるきっかけで話は思わぬ方向に。自身が「避けていた」という一族と戦争との関わりに踏み込んでいく。
祖父の歩みと歴史が重なり、戦争のある日常と向き合ったとき、過去の戦争がまったく違う形でリアルさを帯びてきたという。
「出版業界へのアンチテーゼ」でもあるという著作について聞いた。
「大五反田」構想から始まった
――斬新なタイトルですが、どうやって決まったのですか。
かなり大風呂敷ですよね。実は、そんなに深く考えたわけではないんです。
企画のきっかけは五反田に拠点を置き、出版やトークイベントなどを手がける出版社「ゲンロン」から「五反田を題材に何でも書いてください」と言われたこと。なんとなく思い浮かんだタイトルを提案してみたら「いいね」と通り、2019年、デジタル上で連載を始めました。
自分に縁の深い地をつなぎ、表せるアイデンティティーはないか。そこで浮かんだのが、五反田駅を中心に、戸越銀座も含む半径1.9キロほどのエリアを「大五反田」と呼ぶ概念でした。
コロナ禍と重なり、取材に出かけるのが難しくなった時期でしたが、地元を「現場」と考えれば、これは強みです。散歩したり、図書館に行ったりしながら、五反田の歓楽街のことなどを書いていこうと思っていました。
焼け野原になった品川、生き残った祖父
――ところが、次第に戦時中の話に入り込んでいきます。
きっかけは、香港から来た友人と一緒に「大五反田」を歩いていたとき、空襲で一帯が焼け野原になったことに話が及んだことです。友人はピンと来ない様子でした。
香港では、日本と戦争といえば、映画に登場する「加害者」のイメージ。日本の本土が空襲を受け、焦土と化したことはほとんど知られていないのだ、と気づきました。
でも、それだけではありません。
彼が疑問に思ったのは、「家…