信仰に向かうのは女性たち 背景にあるジェンダー不平等を見つめる

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論壇時評 東京大学大学院教授・林香里さん

 親のカルト信仰や宗教活動を強制されて生きる「宗教2世」たちが声を上げはじめた。2世信者たちの生き様を描いた菊池真理子のコミック(〈1〉)は、大手出版社のウェブ連載が宗教団体からの抗議で公開停止になった後、先月別の出版社から刊行されて話題になった。「サバイバー」とも言える壮絶なエピソードの数々を読み進めるうちに、気付いたことがあった。それは、ほとんどの場合、母親が信仰を主導し、子どもたちに強引に活動に参加させていることだ。父親はいないか、見て見ぬふりをするか、アルコール依存症の者もいた。朝日新聞の2世信者の特集でも、インタビューを受けている人たちは「母の影響」を語っている(〈2〉)。そういえば、安倍晋三元首相の銃撃事件の山上徹也容疑者も、シングルマザーの母親の信仰で悩んでいた。

 統計的な把握は難しいが、菊池の描く漫画を通して、一部のいわゆる新興宗教団体は、日本の女性たちの生きづらさの受け皿になりながら、彼女たちを巧妙に利用していると感じる。

 旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の元信者の竹迫之(たけさこいたる)は、37年間、脱会支援活動を続けている。牧師で東北学院大非常勤講師の竹迫は、教団の勧誘のターゲットは圧倒的に女性で、なぜなら「女性は結婚で名字が変わるなど、ライフステージで変化や我慢を強いられることが男性に比べて多い。子育てで悩むことも多く、(略)勧誘の際は我慢からの解放を期待させる」と説明する。霊感商法でも家族が利用され「『ここで決断しないと、お子さんに悪いことが起きる』と宗教的な脅迫を行い、どんどん深みにはまるパターンが多い」と言う(〈3〉)。

毎月、雑誌やネットに掲載される注目の論考を紹介する「論壇時評」。今月のテーマは、新興宗教と女性です。スピリチュアリティ、政教分離、「伝統的子育て」に関する論考をもとに、林さんが考えをめぐらせます。

 宗教社会学を研究する橋迫(はしさこ)瑞穂によれば、近代化に伴い、宗教は公的な領域から退出する一方、家族という私的領域にはむしろ深く関わるようになった。とくに日本の新興宗教は、母子の関係を重視し、「母親の役割に対して答えを用意」してきた(〈4〉)。日本は、社会学者の藤田結子が言うように「ワンオペ育児」の国(〈5〉)。育児に伴う負担と努力を女性ばかりに背負わせる。介護も同様。重い責任に耐えられず、「救い」を求める人がいても不思議ではない。もとより女性たちは自己犠牲や無償労働に慣らされている。女性たちを布教活動や集金などの「奉仕」に駆り出して搾取する様子は、日本社会の究極の縮図だ。

 橋迫は近年、女性たちが自ら…

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    小熊英二
    (歴史社会学者)
    2022年11月24日10時53分 投稿
    【視点】

    慧眼な指摘だが、この構図は新興宗教だけではない。一定年齢以上の女性がもつ社会関係資本を利用し、彼女たちの集金力と低賃金に依存した訪問販売は、金融商品や飲食品など、日本では昔から数多くみられた。 ただし、同年代の女性の社会関係資本と無償

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