神奈川の山を歩き回る牛たち 「山地酪農」で乳を搾り、山をつくる
編集委員・大村美香
現場へ! 酪農家たちの挑戦④
山を登る道は細く、勾配は急だ。右に左にとハンドルを回しながら、車のナビゲーションを何度も確かめた。やや不安になった頃、視界が開けた。市街地が眼下に、遠くまで丹沢山地の山並みが広がる。
神奈川県西部、山北町の大野山。標高約700メートル、山頂近くの牧場の入り口に「薫る野牧場」と木彫りの看板が立っていた。花坂薫さん(33)が2018年に開いた。この牧場の牛たちは、1年を通して自由に山で歩き回り、山に生える草を食べて過ごす。山地(やまち)酪農というスタイルだ。
花坂さんは隣接する相模原市の出身。大学生の時に、岩手県岩泉町で山地酪農の牧場を営む中洞(なかほら)正さん(70)の著作を読み、10年12月に中洞牧場を初めて訪れた。それまで、牛に触ったこともなかった。
卒業後、牧場に就職。4年半…