画面越しに見た兄の足が震えていたのを覚えている。
2021年夏、東京五輪の記憶を苦笑混じりに振り返るのは、スポーツクライミングの23歳、楢崎明智(TEAM au)だ。
見つめたテレビの向こうで、日本男子のエースである兄、智亜(26=TEAM au)が五輪決勝の壁に挑んでいた。
「ボルダリングの第1課題。『ミシンを踏む』って言うんですけどね、ホールド(壁に取り付けられた突起物)を踏む足がめっちゃ震えていたんです。ああ、緊張しているなって。いつものパフォーマンスとは全然違ったので、心配しながら見ていました」
あの日、智亜は圧倒的な金メダル候補だった。だが、大舞台の雰囲気にのまれたのか本来の力を発揮できず、まさかの4位に沈んだ。
「試合が終わった後、『ダメ…