東電の悪質性を認定 仙台高裁判決 南相馬原発集団訴訟
東京電力福島第一原発事故を巡り、福島県南相馬市原町区の住民42世帯140人が東電に損害賠償を求めた集団訴訟で、仙台高裁の小林久起裁判長は「経営上の判断を優先させ、事故を未然に防止すべき原発事業者の責務を自覚せず、結果回避措置を怠った」などとして一審・福島地裁いわき支部判決で認めなかった東電の悪質性を認め、一審からほぼ倍増の2億7929万円の支払いを命じた。
午後2時半過ぎ、判決言い渡しが終わると、法廷から出てきた原告弁護団らが仙台高裁前で「勝訴」「東電の悪質性を認定」などと書かれた旗を掲げ、集まった原告や支援者からは拍手が送られた。
判決後の会見で、原告の佐藤妙子さん(70)は「判決で原発事業者の責任を怠ったと触れたのは大きい」と話した。一方で、「原発事故と生涯向き合っていかねばならず、賠償額が多いとか少ないではない」と複雑な表情を浮かべた。
南相馬市原町区の住民が故郷を失ったり、避難生活で苦痛を強いられたりしたとして賠償を求めた訴訟。2020年11月の一審判決では原発の20キロ圏には1人150万円、20~30キロ圏は同70万円を加算して支払うように東電に命じた。
今回の判決はこの加算を一審より増額し、20キロ圏には1人250万円、20~30キロ圏は同120万円を加算して支払うように命じた。また、東電が「すでに支払い済みの賠償金でまかなえる」と主張した点について、判決は退けた。
原告弁護団の大木一俊弁護士は「経済優先で津波対策を怠ったと厳しく糾弾している点は評価できる。他の訴訟でも東電の悪質性を認めるために大きな一歩になった」と評価した。
一方で、「ふるさと喪失・変容慰謝料」は一審より減額された。米倉勉弁護士は「避難指示が解除されても地域の生活が変容して、ふるさと喪失と同じだと主張してきた。後続の訴訟に向け、(今回の判決を)乗り越えていきたい」と話した。(滝口信之)