子どものテレビの見過ぎは体や知能の発達に影響? 乏しい科学的根拠

大脇幸志郎
[PR]

 寒さがつのり、外に出るのもおっくうになってきましたね。

 うちの子はだいぶ歩けるようになってきましたが、公園で遊びまわるにはまだまだ時間がかかりそうです。保育園と、たまのお出かけのほかには、ほとんど家の中にいます。

 子供と一緒に遊ぶのは楽しいですが、家事もあるし、やはりひとりでおとなしく遊んでいてほしい時間はあります。そんなとき、テレビや動画配信が頼りになります。うちの子は子供向け番組も好きですが、相撲や朝ドラを食い入るように見ていることもあります。

 子供にテレビや動画を見せるのがなんとなく悪いことに思えてしまう親は多いのではないでしょうか。テレビは目に悪いとも言われますし、元気に外で遊び、人と触れ合い、絵本に親しむすこやかなイメージとは対極にあります。

 世界保健機関(WHO)も「5歳未満の子供の身体運動、じっとしたままの行動と睡眠についてのガイドライン」(*1)という文書の中で、1歳未満の乳児は最低でも30分のはらばいになっている時間(タミータイム)を確保して運動をさせ、一度に1時間を超えてベビーカーなどに固定することはせず、テレビやタブレットの画面は見せず、生後3カ月までは14~17時間、4~11カ月なら12~16時間の睡眠をとらせることを推奨しています。

 無理ではないでしょうか。

 筆者はタミータイムを意識したことはありません。月齢が低いころは泣いたりうんちを漏らしたりで手いっぱいでしたし、遊んでいても体の向きを親が変えると泣きました。動けるようになるにつれて、今度はじっとさせるのに苦労しています。

 ベビーカーやバウンサー、ベビーチェアはよく使っています。親の食事に付き合わせることなどもあるので、一度に1時間を超えるのもしょっちゅうですが、ほかの方法で安全に静かにさせていられるとも思えません。

 睡眠時間をコントロールできるとも思えません。親の思い通りに寝かしつけられる方法があったら教えてほしいものです。

 そしてテレビです。子供に見せないように親だけテレビを見るという考えは現実的ではないと思います。テレビがないとか、あってもほとんど見ないとか、子供が寝たあとで映画を見れば十分といった家庭以外は、子供にテレビをまったく見せないわけにはいかないでしょう。

 どれもこれも、ガイドラインの著者が子育てをしたことがあるのかどうか疑問に感じてしまう内容です。

 しかも、テレビを見せないようにすることで得られる健康効果のエビデンスはないに等しいのです。

 上記のガイドラインでは、テレビなどの画面を見せることでじっとしている時間が増え、運動不足になるという想定がなされています。それが子供の肥満度、運動発達、精神的・社会的な健康状態、知能発達に影響するかもしれないというのです。

 ところが、添付資料(*2)にまとめられたその根拠は、エビデンスの質が「非常に低い」とされるものがほとんどで、質が「高い」とされるエビデンスはひとつも挙げられていません。わずかに2本の論文だけが「中等度」の質のエビデンスとされていますが、その2本の内容は以下のようなものです。

 ・2歳から6歳の子の親にテレビを見せる時間を減らすよう指導したところ、テレビを見せる時間と子供の乱暴な行動が減った(*3)。

 ・2歳から4歳半の幼稚園児に、画面が次々に変わる映像を見せたところ、あまり変わらない映像を見せた子供よりも目移りしやすくなった(*4)。

 上の研究結果から「テレビを見せないようにしたほうが乱暴な行動が減る」と考えるのは早計だと思います。

 第一にエビデンスの質が「中等度」であり、データが偏っている可能性があります。第二に、乱暴な行動を減らしたのは「親に指導をすること」であって、テレビが原因ではないかもしれません。

 つまり、この研究に参加した親には紙とCDの資料が配布され、テレビを見せる時間を減らすために毎日本を読んであげなさいとか、食事中はテレビを消しておきなさいとアドバイスされたうえ、定期的な電話でカウンセリングがなされました。そうした手厚いケアによって親子の仲が良くなったから乱暴が減ったのかもしれません(そのために親はたいへんな労力を払ったと思いますが)。

 もうひとつの目移り実験については、なぜこの実験から「テレビは見せないほうがよい」と結論できるのか、筆者にはわかりません。

 ほかの健康効果については、エビデンスの質が「非常に低い」ものしかありません。

 要約すれば、子供にテレビを見せないようにする努力は、乱暴な行動を減らす効果があるかもしれないがはっきりとはわからず、ほかの効果はあるのかないのか不明に近いということです。しかも0歳児だからといってテレビゼロを目指す根拠はゼロです。

 それだけのために、テレビで子供が喜び大人も楽になる効果を手放すのが合理的とは、筆者には思えません。

 年末年始はコタツにミカン、ぼんやりテレビでも見て過ごすという家庭は多いと思います。そこで「子供に悪影響があるかもしれない」などと考える必要が本当にあるのでしょうか?

*1 https://apps.who.int/iris/handle/10665/311664別ウインドウで開きます

*2 https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/311663/WHO-NMH-PND-19.2-eng.pdf別ウインドウで開きます

*3 Child Care Health Dev. 2015 May;41(3):443-9.

*4 Acta Paediatr. 2017;106(5):831-6.(大脇幸志郎)

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

今すぐ登録(1カ月間無料)ログインする

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

【期間中何度でも15%OFF】朝日新聞モールクーポンプレゼント
大脇幸志郎
大脇幸志郎(おおわき・こうしろう)
1983年、大阪府生まれ。2008年に東大医学部を卒業後、「自分は医師に向いているのか」と悩み約2年間フリーターに。その間、年間300冊の本を読む。その後、出版社勤務、医療情報サイト運営を経て医師に。著書に「『健康』から生活をまもる」、訳書に「健康禍 人間的医学の終焉と強制的健康主義の台頭」。