アポなしで「生徒の本出したい」 舞い込んだ企画に編集者は決意した

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宮沢崇志
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カンサイのカイシャ ここがオモロイ!

 人は一生に何度、やるべき仕事と向き合うのでしょう。兵庫県姫路市にある出版社・金木犀舎(きんもくせいしゃ)に、ある企画が持ち込まれました。原稿はまだ影も形もない。執筆するのは高校生。出版のハードルが高すぎます。それでも、同社の浦谷さおりさん(49)は「こういう本を出すことが地方の出版社の存在意義では」と感じたそうです。

 2021年10月、金木犀舎にアポなしの来客があった。訪ねてきたのは姫路市立琴丘(ことがおか)高校で学年主任を務める松本真吾さん(61)。「生徒たちの本を出版したい」という。

 浦谷さんが聞き取った企画の内容はこうだ。月末に2年生が沖縄へ修学旅行に行く。生徒3~4人の約70班がいろいろな人を取材してリポートを書く。現在、生徒たちが取材先へアポイントを取っている――。全国的にも珍しい探究学習の実践だと浦谷さんは思った。

 まだ原稿もない段階で出版の約束はできない。でも、企画は間違いなくおもしろいし、すばらしい。浦谷さんがそう伝えると、松本さんは「やった、ありがとうございます。きっといい原稿になります」と満足そうに帰って行った。

震災経験し「やりたいことをやろう」

 浦谷さんは、子どもの頃から雑誌を作る仕事やイラストレーターにあこがれていた。ただ、姫路では、出版の世界は遠く感じられた。

 神戸大学で美術の教員になる勉強を続けていた1995年1月17日早朝、神戸市内の下宿先が激しい揺れに襲われた。阪神・淡路大震災。住んでいたアパートは半壊した。

 地震発生の午前5時46分は、展覧会に向けて絵を描いていた。起きていたのですぐに避難できた。ただ、近くでは建物が倒れ、亡くなった人もいた。

 震災のあと、やりたいことをやるべきだ、と感じた。3年生の年度末で大学を中退。フリーランスとして編集の世界に飛び込んだ。

 結婚、出産、夫の転勤………

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