「9月30日までに退去をお願いします」
2021年2月。さいたま市内の学童クラブ(放課後児童クラブ)が賃貸契約を結んでいた家主から突然、こんな文書が届いた。
契約では、次の更新は22年7月の予定だった。だが、老朽化で解体することになったという。
半年以上前の退去要請は法的に問題ない。クラブは移転先を探し始めた。
移転先の条件は「学校から近く、できれば学区内」「所属人数に応じたスペース(約54平方メートル以上)がある」「市の家賃補助の上限(主要駅から1キロ圏内なら月20万円で加算条件あり、など)を超えない」――などだ。
当時クラブで保護者会長だった会社員の木村愛さん(31)は、こう振り返る。
「半年あるから、どこかは見つかると思っていた」
ところが、物件探しは難航した。
「40~50件もの物件を資料請求したり、内覧したりしたが全滅だった」。用途が学童保育と聞いたとたん、連絡がなくなることも複数あったという。
8月には木村さんの同僚の知人がたまたま持っていた一軒家の空き家があり、直接交渉で移転を決めた。
だが、学童が移転してくることを知った近隣住民から「建物が古く、騒音も心配」などと市に苦情が入ったという。
木村さんは「私たちも退去期限が迫るなか移転先を探すのに、精いっぱいだった。住民の方への説明を丁寧にしてこなかったのはよくなかった」と話す。
住民側も別の物件探しに協力してくれるなど、クラブ側の事情に理解を示してくれたものの、移転自体は折り合えなかった。
結局、期限を過ぎても移転先は見つからず、退去は延ばさざるを得なかった。その後も物件探しは続き、家主側からは何度も退去を求める連絡がきた。
物件決定まで1年 「悔しさ感じた」
22年2月。「もうクラブを解散するしかないのかも」と思い始めた矢先だった。家賃の条件が合わず一時は断念していた学区外の物件と、再交渉の末に折り合いがついた。
「学校からは大通りを渡らなければならないのが心配だが、これ以上退去を延ばせなかった」
リフォームや引っ越しなどを終え、22年4月から新しい施設で運営している。
退去要請を受けてから約1年が過ぎていた。木村さんはこう振り返る。
「学童を利用する保護者は平日は仕事があるので、物件探しは主に休日になる。子どものための施設なのに、この1年は子どもとの時間を削る状態になり、悔しさを感じた」
学童クラブは児童福祉法の「放課後児童健全育成事業」に位置づけられている。留守家庭の子どもが放課後を過ごすための公的な施設だ。
それなのに、なぜ保護者自らが物件を探す必要があるのか。
背景にあるのは「クラブの保…